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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: 一流政治家の資質?狐の仮面を見極める必要  
コラム名: 新地球巷談 8  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2002/03/25  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   世界保健機関(WHO)のハンセン病制圧特別大使として今年2月、ブラジルを訪問したおり、首都ブラジリアの大統領官邸で、フェルナンド・カルドゾ大統領と会談する機会がありました。大統領は、ハンセン病制圧の最終段階を迎えたブラジルにとって、非政府組織(NGO)の果たす役割がいかに重要であるかを理路整然と話してくれました。

 カルドゾ大統領は、1995年に国家元首に就任しましたが、その前はブラジルを苦しめた「ハイパー・インフレーション」を退治した蔵相であり、著名な社会学者でした。70年代、「先進国への従属関係を維持しながら、無理せず段階的に経済発展を考えよう」という開発途上国向けの「従属理論」を確立し、スタンフォード大学やケンブリッジ大学で教鞭(きょうべん)をとっていました。

 私はこれまで、3人の学者大統領と会ったことがあります。1人はペルーのアルベルト・フジモリ元大統領、もう1人はルーマニアのエミル・コンスタンティネスク前大統領です。カルドゾ大統領との会談後、その筋道立てた話ぶりから、ほかの2人の学者大統領を思い、プロの政治家との違いを考えてみました。

 フジモリ氏は、日系移民の子として生まれ、農業経済学を専攻、農業大学学長を経て、欧米人によって占められていた支配階層の厚い壁を突破して大統領になりました。彼は、「テロと貧困との戦い」で常に現場に立って指揮をとり、その阿修羅のような厳しい戦いぶりはとても学者出身とは思われないものでした。今は、国内の混乱から不正蓄財の嫌疑をかけられていますが、近い将来、正当な評価を受けるものと信じています。

 コンスタンティネスク氏は地質学と結晶学の権威で、独、英、米などの有名大学で教鞭をとった経歴の持ち主。国民の高い支持をうけていたのですが、体制の「汚職腐敗にあきあきした」と、1期4年で大統領の座から降りてしまいました。

 3人の共通点は、30年代生まれで学者として豊富な海外経験を持ち、直接選挙で大統領に選出されたことでしょう。また、「学者の取った天下なし」との諺があるように、生身の人間関係を捌(さば)く現実政治の場では、とかく学者は空理空論になりがちですが、3人はそれぞれ、存在感と具体的成果をあげています。

 一流の政治家にとって必要不可欠な資質は、しばしば4種の生き物に譬(たと)えられます。「獅子の雄々しさ」「羊の優しさ」「蛇の執拗さ」「狐の狡猾さ」。日本では政治家の第一義に気高さ、潔さを求め、「蛇」や「狐」は嫌われますが、政治はむき出しの権力欲が渦巻く世界であり、とりわけ国益がぶつかる国際政治の場では、この資質なくしては一流の政治家とはいえないでしょう。

 残念ながら、3人の学者大統領には「狐の狡猾さ」が欠けていました。私が出会った数多くの政治家のなかでは、リチャード・ニクソン元米大統領が一番、4つのバランスがとれていたように思います。ただ、最後はご存じの通り、盗聴事件という「狐」の資質が突出して失敗しましたが…。

 日本では昨今、鈴木宗男衆院議員問題など、ますます国民の「蛇」「狐」の資質への嫌悪感が高まっています。テレビが日常生活に不可欠になった今日、政治家の一挙手一投足は国会中継を通じ白日のもとにさらされます。どの資質が多いかは一目瞭然、判別できるかに見えます。しかし、一見正義の味方に思える政治家が、テレビ用に狐の仮面を付けているかもしれません。狐が狐に化けているといった二重仮面への疑問符付きで、その資質を判断するべきなのかもしれません。(日本財団理事長)
 

ハンセン病とは?  
世界保健機関(WHO)が日本財団理事長笹川陽平をハンセン病制圧特別大使に任命  
世界保健機関(WHO)のホームページへ(英文)  


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