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アメリカには「今年の犬の英雄」というコンテストがあるそうだ。今年の英雄に選ばれたのは、フロリダに住む2歳のオーストラリア・ブルー・ヒーラー種の雄で、名前もブルーである。犬の飼い主はルツ・ゲイという85歳の老婦人であった。
去年の6月の或る夕方のこと、ブルーを連れて運河沿いの道を散歩していたルツは、濡れた草に滑って鼻を折り、肩の骨を外してしまった。ルツが助けを呼んでいる間、ブルーは彼女の傍に横たわっていたが、突然走り出した。
ブルーには、15メートルほど先でルツを襲おうとして運河から上がってきたアリゲーターの気配がわかったのである。ブルーは体中に傷を負いながら、アリゲーターを牽制してルツに近寄らせなかった。そして約1時間後に、ルツの娘夫婦がやって来た時、彼女が横たわったままになっている場所に2人を誘導した。「私はブルーがアリゲーターと闘っているのが聞こえたのよ。そしてブルーは殺されたと思っていたの。娘たちが来た時、ブルーが吠えたので、私は彼が生きているのがわかったし、彼が私をアリゲーターの襲撃から守ってくれたということもわかったの」
「犬の英雄」になるには、この1年の間にさまざまな英雄的な行動を取った100匹の出場犬たちに勝ち抜かなければならないのだから、大変なのである。
この企画のコーディネーターのパティ・ジョ・ランバートによると「もう47年もこのプログラムをやってますけど、アリゲーターと闘った犬というのは今年が初めてよ」ということだ。
私は最近犬を飼ったことがないので、犬に関する催しもほとんど知らない。日本でも同じような企画をやっているのかもしれないが、どういう犬が1等賞になったのか、一般的なマスメディアで知らされたことは1度もないように思う。
犬が15メートル先に現れたワニの気配を感じただけで、それが人と犬に危害を加える意図だと直感するのも考えてみれば不思議だ。フロリダは沼沢地が多いから、犬もワニと遭遇した場合の対処の仕方を本能的に訓練されているのかもしれないが、ワニに食われないようにして脅すという手口も立派なものである。
こういう話を日本で読めない理由は、「勇敢な」とか「忠実な」という概念が、今でも社会から追放されたままだからのような気がする。日本では、犬でさえも、勇敢であったり、忠実であったりしてはならないのだ。勇敢や忠実は、すべて戦争や封建制と結びついている、という幼い発想からである。
ブルーにとってルツは好きな人だったのだ。好きな人を守る時、我々は誰もが勇敢で忠実になって自然だと思うのだが…。
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