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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 肥満の多い国?適切ということのむずかしさ  
コラム名: 自分の顔相手の顔 514  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2002/03  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   アメリカではどのていど大きな社会問題になっているのか知らないが、アメリカ人の体格の大きさは近年驚くばかりである。

 日本でも「私は太っている」と言う人は多いが、日本人の太り方などたかが知れている、と最近思うようになった。アメリ力人の団体旅行客を見ていると、その8割は男女を問わず70キロ以上はありそうに思う。私の知人の□の悪い男性によると、その人の前を1歩で横切れる人は決して肥満とは言えないのだそうで、ほんとうに太っている人は、前を通り越すのに1歩半を必要とするのだそうだ。

 昔ヴァチカンの会議で、昼御飯の時、東欧の学者と隣り合わせになった。彼はアメリカに行った時、ローストチキンをその店で売っている量の半分の大きさで出してくれないか、と交渉したが、半分では値段も取れないから合わない、と言って断られたのだそうだ。

 「もったいない」という日本語はなかったが、「無駄をしている」とその人は世界中のレストランの料理の量の多さを嘆いていた。

 先日読んだ記事によると、人□4800万人の韓国では、去年、北朝鮮が入手できる食料の全量以上の食べ物を捨てた。その値段は60億ドル(7800億円)以上、404万トンあまりである。それに対して人□2200万人の北朝鮮が消費した食料は約395万トンの米、大麦、ジャガイモとサツマイモであった。

 どうしてこのようなむだが韓国で出るかと言うと、彼らは宴会や客をする時、必要以上のごちそうを並べたがるからだ、と言う。

 年を取るとけちになる、とかねがね聞いていたが、最近自分が年を取るにつれてこの気持ちがわかって来た。適切ということと、ものの命を使い切るということが、この上なく美しいものに見えて来たのである。

 しかし適切ということほどむずかしいものはない。食べ物も、多からず少なからず食べるということには、克己心も知識も要る。いささかの不足が心を爽やかにすることもあれば、無駄なほどの潤沢が心を和ませる日もある、と知ったからだ。このように心と体は時にはお互いに造反もするから、そのどちらをも、私たちは適当にあしらってやらねばならない。

 しかし肥満者が国中にいっぱいいるという状況も、痩せて栄養失調の人がたくさんいる国と同じくらい社会が病んでいるのだし、このおろかしく無意味な不均等は、何とか世界的に本腰を入れて治す必要のあることだろう。
 



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