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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 発泡酒のCM?無責任な話は赤提灯で気楽に  
コラム名: 自分の顔相手の顔 505  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2002/02/19  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   2月13日付けの毎日新聞に民主党の石井一氏が12日の衆院予算委で、小泉総理の長男・孝太郎氏が発泡酒のテレビコマーシャルに出演していることについて「一説には5000万円と言っている。破格だ。あれ(CM)を見る度に発泡酒の値段が下がっているのは、小泉さんのおかげやなと思う」と言ったという報道がされていた。

 私は経済にうといので、一瞬、そんなに高いCM料を払わねばならないタレントを抱えたら、発泡酒の値段は上がるはずだ、と思ったのだから、こっけいなものである。

 この発言に対して小泉氏は答弁席に立ち、「人の名誉にかかわることをうわさで言ってもらっちゃ困る」と言い返した。石井氏は、「そんなに怒ることではない」となだめたが、小泉氏は「『うそ言うなよ』と何度か声を張り上げた」と新聞は報道している。

 公的な席で言うべきことと、言うべきでないことがある。厳密な調査もすぐに提出できる証拠もなしに、「一説」だけで物を言う風潮くらい困ることはない。われわれが聞きたがっているのは、総理が発泡酒の値段の設定に個人的に関与していたという「証拠」であって、証拠がないなら、どんなに言いたくてもそれはまだ口にすべき段階ではないのである。そのような問答の時間あたりの労働報酬も、つまりは国民の税金からまかなわれているからである。

 無責任な話をしたいなら、議員を辞めて、毎晩赤提灯でお酒を飲みながら、風評だけで憤慨したり、感動したりする気楽な市民生活を送るという手もある。議員になったら、公的な場での言動には、重い責任がつきまとうのは当たり前のことだ。

 作家の才能は「うまい嘘をつけることですよ」と私自身言うこともあるが、実は資料についてはかなり厳密で、どんな雑文でも資料は原稿と同時に添付して出版社に送れるくらいはっきりしているものだ。「顔つきだけであの男が悪人だということはわかる」などと書いて原稿料を稼ぐことはめったにない。

 国会議員の資産を公表するなら、総理の長男の出演料も、ビール会社は公表したらどうだろう。私が総理なら、会社から月20万円と総理自らが言われる長男の給与証明も取って来て、国民に開示してしまう。孝太郎氏も総理の息子ゆえに起用され、安月給にも、プライバシーが守れないことにも甘んじなければならないとしたらお気の毒だが、とにかく政治の場で、お噂だけを根拠の質疑応答をするなどもってのほかだ。
 



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