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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 難民問題?旧正月の花に二重写しになって  
コラム名: 自分の顔相手の顔 506  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2002/02/14  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   今年は2月12日が中国正月に当たり、もう2月に入ると町は新しい食器やお鍋を買う人、お祝い用のお菓子を買う人などで賑わう。何か1つお正月には新しいものを下ろすのだそうで、そういう習慣は昔のシナから日本に伝わったのだろう。

 ちょうどその時期、シンガポールにいたので、私は花屋さんに花を買いに行った。いつも1本50円くらいの蘭の花を50本くらい買って、日本ではできないぜいたくをすることにしている。

 ところが旧正月の前は、私には最悪の時期であることがわかった。蘭は正月の花でないので入荷量が減るのか、やはり誰かが新年用にごっそり買ってしまうのか、私の行く時には残りものしか売っていない。

 新年を祝う花の筆頭は小さな実をつけた蜜柑の木でこれは縁起ものらしい。しかし実は数日で落ちはじめ、これで12日まで保つのかしらとはらはらする。

 他には姿の悪いハゲイトウか鉛筆を数本まとめて立てたような竹である。どちらもすぐ飽きが来そうだ。私が買いたいと思ったのは、アザレアかあじさいの鉢植えであった。10日程眺めてからシンガポールの友人の家の庭に植えてもらえば納得が行くような気がしたのである。しかし花屋さんと友人が□を揃えて言うには、植えても生かすことは無理なのだという。

 熱帯というものは、こんなにも花の種類が少ないところだと私は思わなかった。日本では四季おりおりに実にたくさんの花が咲く。しかしここでは、いつも元気に咲いていると思えるのは、10種類か20種類か。

 アザレアとあじさいは、どこか別の国で栽培し、お正月に合わせてホルモンだか薬かで無理に咲かせて持ってくる。しかし地面に下ろしても、この土地の風土の中では暑くて根づかない。

 「難民」という人たちのことを、私たちは「レフュジー」と言うのだと教わったが、国連難民高等弁務官事務所などでは「ディスプレースド・パーソン」(生まれたり暮らしたりしている所から強制退去させられた人)というふうに言っている。

 人でも植物でも育つのに適した土地から動かすということは大変なことなのだ。人間は援助があればまだしも何とか新しい土地で適応して生きて行くが、植物はどんなに水や肥料を与えても枯れる。恐ろしいことだ。

 こういう正月の花を見ていると、難民問題のむずかしさが二重写しになって見える。
 



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