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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: 世間に鈍感な外務省?自分を貫く気概もて  
コラム名: 新地球巷談 6  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2002/01/28  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   外務省で昨年起きた一連の不祥事には、日本中から批判の嵐が巻き起こりました。ノンキャリア官僚による公金横領が立件され、省全体を巻き込んだプール金問題は一部を役職者が弁済することで落着しましたが、依然として、外務省に対する世間の目は厳しいものがあります。

 燻り続けている問題に田中真紀子外相と外務官僚の対立があります。

 官僚側は外相の資質の欠如をあげ、時にマスコミに実態をリークする形で、田中外相の排除を試みようとしています。私も、田中外相の、外相としての資質にはかねがね疑問を呈しておりましたが、彼女に対する国民の人気は依然として高く、60%もの支持率を維持していることをどう考えればよいのでしょうか。

 有り体にいえば、外務省への不信感が底流にあり、鼻持ちならない特権階級意識を発散させてきた外務官僚のドタバタぶりを、外相とのやり取りを通してテレビのワイドショー的に楽しんでいるようにさえ映ります。

 総じて、外務官僚は世間の風に鈍感です。『内政は外交の始まり』にもかかわらず、国民一般の価値判断とはまったくかけ離れたところで発想し、国民の意識との乖離の甚だしさばかりが目立ちます。

 過日、ゴマソール駐日英国大使と昼食をともにする機会がありました。戦後生まれ、50代半ばの気鋭の外交官は実に流暢に日本語を話します。英国の外交官は幕末維新で活躍したアーネスト・サトウの例をひくまでもなく語学力には定評があり、大使もまたその流れの人です。しかし強調したいのは、大使の語学力ではありません。彼が発した一言です。「今後の世界はNGO(非政府組織)を抜きには存在し得ません。英国では外務官僚をNGOに研修に出しています。日本のNGO発展のためにわが国は協力を惜しみません」

 翻ってわが外務省はどうでしょう。「研修したいなら教えてやるから手弁当でおいで」。NGOと協力するどころか、盛んになっているNGOの活動から学ぼうとする姿勢もありません。世間の風に鈍感だからです。

 田中外相との問題でも、本来ならば、外相の資質は最高度の外交機密であるべきはずが、官僚たちは内外に向けて国益を損するようなリークを繰り返すばかりです。かつて日本の外交は、トップの資質如何にかかわらず粛々と進められてきました。このように、幼児性を丸出しにしたマスコミヘの“告げ□”が横行したことはありません。

 外務省の礎を築いた明治時代の政治家、陸奥宗光は『蹇蹇録』の中で日清戦争終結時の政策批判を振り返り、「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」と回顧しています。その言葉は政策の難しさとともに、百万の敵ありともわれ行かんとの不退転の決意と覚悟を示したものでした。ところが、田中外相との問題では、辞表を懐に職を賭して外相を諌めようとするものもいません。外務省のOBたちも「臭いものに蓋」と、だんまりを決め込んでいます。今日、どれほどの外務官僚が己の言動を「他策ナシ」と胸を張って言い切れるでしょうか。

「●(にんべんに周)●(にんべんに党)不覊」(てきとうふき)という言葉があります。媚びず、阿らず、謗らず、ただひたすらに己の思うところを貫く心構えです。これこそ、存在意義を問われている日本の外務省に求められているものではないでしょうか。口の悪い向きは、「外務省には条約と儀典の部門さえあればいい」とさえいいます。だからこそ、気概と雄々しさをもって存在意義を内外に示しすべく頑張ってほしいのです。(日本財団理事長)
 



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