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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 新年の目標?身の廻りのもの買い本を読む  
コラム名: 自分の顔相手の顔 495  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2002/01/08  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   年が改まったとは言っても私自身お正月に新しい決意をしたこともない。ただこの年になると、病気になって周囲に迷惑をかけないで生きることが任務だと思うようになった。

 世界的に去年はさんざんな年だった。せめて今年はいい年であってほしいと誰もが言うのだが、思うだけでは何もならない。ささやかなりとも意識的に、社会をよくするために働かなければならないはずである。

 経済が落ち込んでいるなら、自分の生活に照らして、少しだけ消費すべきだ。昔は「お国のために」何かをする、という意識は当然のことであった。今、そんなことを言おうものなら、それは思想の統制だ、愛国心は危険思想だ、と非難される。しかし目下のところ、人は国家に所属しないでは生きていけないのだから、愛国心なしでやれるはずはない。愛国心は思想ではなく、ナベカマ並みの生きるための必需品だと私は思っている。

 同時多発テロ事件以来、アメリカの爆撃は暴挙だという人が日本には多いが、元の原因はオサマ・ビンラディンの無差別テロにあったことを忘れてはいけない。テロがないのに、アメリカがアフガニスタンに侵入することもなかったろう。しかしさらにその元を正せば、あのようなテロを引き起こす人を作ったのは、アフガニスタンという国家が貧しく、外交力もなく、主権国家として他国に付け入らせる余地を与えないだけの力を持たせられなかったアフガニスタンの歴代の指導者たちの、統率力のなさにあるだろう。

 国家が壊滅的になっていて、市民がまともな生活をすることはとうてい無理なのである。だから私たちは毅然として行動できる論理の通った国家を成り立たせるために、意識的に働く部分があって当然だと私は思う。

 すべてのことは、出入りの収支決算が大切である。お金も呼吸も栄養の摂取も同じである。入るものと出すものとの合理的な釣り合いが取れないと、心も体も病気になる。

 誰もが少しは消費に廻す時、月に1冊は本を買う運動も入れるべきだろう。これほど本を読まない人間を作ったのは、親と教師の恥である。本は図書館で借りるだけでなく、自分で買うと違うのはまず読み返せるからだし、心おきなく線を引いておいて、後で自分が感動した点をすぐ引き出せるからだ。その思想と言葉を、一生生活の中で使って知的人間として暮らせる。今年は少し身の廻りのものを買って身ぎれいにし、本を読んで知的人間になる。それだけでも新年の目標としては重厚なものだ。
 



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