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21世紀は「海の世紀」とも言われます。多種多様な可能性を秘めた海は壮大な夢を描く楽しみに満ちていますが、忘れてならないのが「海の安全保障」でしょう。
四面を海に囲まれた島国・日本は、数々の恩恵を海からうけてきました。しかし、かつての英国のように国益を海に求めた「海洋国家」であるか否かは、議論の余地があります。日本人の海への理解は「青い海原と白砂青松」にとどまり、所詮、沖から先にいかない「渚(なぎさ)の発想」でしかないと思うのです。
島国育ちの日本人は、「国境」の持つ重みを体験として知りません。海の国境についても、「海が外敵を防ぎ、侵略が難しい」と言われてきましたが、今日、そのメリットがデメリットに変わってきた現実をどれほど認識しているのでしょう。
日本の海岸線の総延長は世界第8位、国土面積では20倍以上の中国よりも上位にあります。排他的経済水域は第7位、しかし、その広い日本の領海では国籍不明の不審船の侵犯が跡を絶たず、密入国を試みる船が長い海岸線を狙っているのです。また、他国からの不法操業や海上での麻薬取引も多発しています。
昭和60(1985)年、日向灘沿岸に初めて高速不審船が出現しました。当時の海上保安庁には対応できる体制は整ってはいませんでした。現場職員の失望感を知った私は、高速巡視艇の研究を学者グループに依頼、海上保安庁の尽力もあり63年に高速巡視船「みなはし」が完成しました。その後多くの高速巡視船が配備されましたが、まだ満足できる状況とはいえません。
「シーレーン」という言葉をご存じですか。
広辞苑には「国家がその存立のため他国に脅かされてはならない海上交通路」とあります。貿易国で、資源の大半を輸入に頼らざるを得ない日本にとって、シーレーンの安全確保は重大な課題です。とりわけ重要資源の石油には、中東から日本まで長いシーレーンが存在しています。途中のマラッカ・シンガポール海峡は、マレーシア、シンガポール、インドネシア3カ国にまたがり1千キロもの長さで幅の狭い海域が続き、1日約600隻の船が行き交う世界有数の航海の難所です。近年この海峡で海賊による被害が多発、ますます安全確保が叫ばれています。
日本財団では昭和43年から、この海峡での安全航行確保に取り組んできました。万が一、タンカーの事故が起きたら日本など利用国が致命的なダメージをうける「生命線」だからです。海峡の安全航行のための国際機構設立に向けてリード役ともなっています。
安全保障を考える根本は、「unthinkable thinking(アンシンカブル・シンキング)」だと言います。通常では考えられないことを考えるといった意味でしょう。9月11日の米中枢同時テロを想起すれば、この言葉の意味がわかります。日本の国会におけるアフガニスタン問題の議論では、この根本がなく、創造力の欠如を感じました。
私はマラッカ・シンガポール海峡、その代替のインドネシアのロンボク海峡が紛争や災害、事故などで航行不能になった場合を想定し、6年前からノルウェー、ロシアとともに北極海航路の開発に取り組んできました。衛星から氷の状態を監視できるようになり、技術的には航行可能との結論が出て、いよいよ具体的な計画立案に入ります。
年の初め、海から昇る初日の出を迎える方も多いでしょう。その時、海はロマンだけではなく、「安全保障」や「資源、環境」など厳しい現実があることも思いだしてください。(日本財団理事長)
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