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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 指導者のその後?精神的な影響力は残らない  
コラム名: 自分の顔相手の顔 491  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/12/12  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   オサマ・ビンラディンを逮捕するか、その場で殺すべきか、に関しては、世界中で折り目正しい裁判が行われてそこで真実が明確になる、などと信じているそれこそ「お人よしな日本人」は、当然逮捕を望むであろう。何しろ判決が出るまではオサマ・ビンラディン氏である、という国なのだから。

 しかしオサマが生きてどこかの国で収監されている限り、それを取り戻そうとしてあちこちで、乗っ取り、誘拐が行われ、その人質の命と引き換えにオサマ釈放の要求が繰り返されることは眼に見えている。そのうちにどれだけ西側の「インノセント」を報復として捉え、代償として殺せるかが、オサマの後継者たちの手柄と流行になるという異常事態さえ、起きないという保証は全くない。
 
 しかしオサマがその場で自殺したり、アメリカ軍が殺した場合、オサマの存在は以後長く聖者のように力を持って破壊的行為の原動力になるかもしれない、と心配する人が、私をも含めてかなりいる。

 先日、アラブ通の人と話す機会があったので、私がこの点を教えて欲しいと言うと、「殺されたり、自殺したオサマは、死後全くその力を持たない」という見方であった。

 第一の理由はオサマはやはり力を持たなかったから負けたのであり、他の理由としては、恐らくタリバン以後のアフガニスタンに止むことなく続くであろう、執拗な勢力抗争が考えられる。

 死んだ指導者を悼むことなどないのだ。親分が1人死ねば、そのシマは誰が取るか、というだけの話である。死者に精神的な影響力の残存を認め得るのは、想像力を持つ知識人の妄想という言い方さえできる。

 アメリカもひどい出費であった。パキスタンで墜落したブラック・ホーク型ヘリコプターが約13億円、アフガニスタンで落ちたぺーヴ・ロー型ヘリコプターは約48億円。GBU?37バンカー・バスター爆弾は1発が約2770万円。トマホーク型巡航ミサイルは7200万円から1億2000万円。

 戦争のやり方によるだろうが、AP電は1月当たりの軍の出費を、600億円から1200億円と算出している。

 武器の開発によって、多くの機器の進歩があることも一面でほんとうだが、こういう破壊的目的に金を使うと、国も人間も疲れて来るのは当然であろう。
 



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