|
相変わらずオサマ・ビンラディン氏と氏づけで書き続ける新聞の見出しを読むことは、一種の娯楽とさえ思えるようになっていたが、私の手元にあるシンガポールの「ザ・ストレイツ・タイムズ」紙の、やや古くなりかけた11月12日付けの記事を読んでみると、事件に関するオサマの関与の仕方の変化がよく書かれていた。
オサマは9月11日の同時多発テロ以来、4本のヴィデオを作って支持者に送っていたらしいが、初めは事件との関係を否定して来た。つまり普通の犯罪者と同じで、「そんなことはしていない」としらを切っていたのである。
事件以後、私はオサマ・ビンラディンは犯行声明を出すべきだ、と思っていた。私は犯行声明と呼ばれるようなものを出す状況を嫌悪するが、もしあれが悪者アメリカに対する「正義の戦い」なら、「私が計画し、私が命じた」と言ってこそ、指導者というものである。自爆テロの実行で死んだ仲間がいて、その行為がイスラム教の「聖戦」に当たるなら、なおさら「彼らのやったことなど、私は知りませんよ」というのは、指揮者としても卑怯、信仰者としても裏切りだ、と思ったのである。
オサマが支持者たちに向けて送った4本目のヴィデオは、まず最初にイギリスで、ついでアメリカで公表された、という。
「歴史は私たちがテロリストであることを証明するだろう。そうだ、我々がインノセント(罪なき人々)を殺すのだ。そしてこれは、宗教的にも論理的にも正しいのだ」
インノセントという言葉はどう訳すべきなのか。インノセントには「罪のない、無害な」という意味と共に、「お人好しの、ばかな」というニュアンスもあるからだ。「アメリカに代表される享楽主義、物質主義、平和を標榜しながら決して核を捨てず平然と武器を売って儲ける悪徳国家、のお人よしな手先になった人々」と取れないでもない。
オサマはその中で世界貿易センターを「当然の標的」とした。なぜならそれは「合衆国の経済力を支えているから」で、「破壊されたのは幾つかの高層ビルの塔だけではない。あの国の士気の塔も打ち倒されたのだ」とも語った。
4本目のヴィデオの特徴は、彼が初めてテロ攻撃に責任ある者として「私」と「我々」という言葉を使ったことだという。それまでは「彼ら」というふうに、事件の関係者のことは、常に三人称を使って話していたのに、彼は態度を変えたのであった。
|
|
|
|