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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 豆スープ?世の中は自然に調和がとれる  
コラム名: 自分の顔相手の顔 486  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/11/27  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   サン・フランシスコ周辺の秋の色を見ながら昔の級友と歩いでいると、ちょうどお昼時になった。近くのショッピング・センターの中にサラダ屋さんがある。

 7ドル(840円)くらいで、いろいろなサラダとパン、スープ、アイスクリームやケーキ、ソフトドリンクまでついている。収入の少ない家庭でも、それだけのお金を溜めれば、お腹いっぱい食べて満足できるのだ。

 サラダといっても、レタス、ビーツ、ニンジン、マッシュルームなどあらゆる種類の野菜に、ドレッシングも各種、その上にかけるトッピングも豊富に揃っている。思いなしか太って大きい人のお皿は山盛り。私もよく食べる方だけれど、それでも山は少し低い。

 私たちの隣のテーブルは、孫を連れて来ているお祖父ちゃんである。ちょうど感謝祭を間近かに控えている時だったので、アメリカのあちこちで家族が集まっている。祖父母が息子や娘夫婦の家に行ったり、娘夫婦が訪ねて来たりするから、こういう光景も目立つ。英語でお祖母さん、ということを示すグランドマザーという言葉をそのまま動詞に使い、「アイ・アム・グランドマザーリング」と言うと、「お祖母ちゃんやってるの」とか「孫を見ているのよ」という意味になるのだと知ったのは、大学の英文科を卒業してずっと経ってからである。

 スープは5種類あった。私は初め「ニューオールリンズ風野菜スープ」というのを食べてすっかり感激した。見かけは美的ではなくて、兵営か刑務所のスープという感じなのだが、味はすばらしいのである。

 サラダをもう一度立ってもらいに行く気はなかったが、他のスープも果しておいしいのか気になって、今度は「南西部風豆スープ」というのをお代わりしに行くことにした。

 スープ鍋の前には先客がいた。娘を連れた奥さんである。彼女はスープ鍋の底をさらうようにしておたまになみなみとスープを入れると、お鍋の縁を利用して、うまくおたまを傾け、中にお豆や肉の部分だけを残した。そんな風に彼女は2度同じことをくり返しして、スープ皿の中には、ほとんどお豆の堆積でいっぱいだった。

 私の番が来た時、私も自分勝手なよそい方をした。おたまで上澄みだけをすくって、スープ皿にほんの3分の1ほど入れたのである。

 考えてみると世の中の釣り合いというものこんなにもうまく取れている。実だけすくう人と上澄みだけほしい人とで、自然に調和が取れるのである。
 



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