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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 過保護?当たり前の注意が多すぎる  
コラム名: 自分の顔相手の顔 481  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/11/07  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   日本の交通機関の「おしゃべり」の多さは異常だと思うことがある。

 まず空港内のゲートの近くで、文字通り大声で「××さまいらっしゃいますか!」と何度も何度も叫んでいる地上係員のお嬢さんがいる。飛行機が出そうになっているのに、当人が来ないからである。その呼び声のけたたましさは何事が起こったかと思うほどだ。なぜ外国では、そんなに叫ばなくてもやっていけるのか調査することだ。

 やっと座席に坐ると、緊急時の脱出方法を長々と説明したあげく、「詳しいことは座席前の説明書をお読みください」と言う。それならくだくだしく言うな、という感じになる。緊急の脱出口の近くに坐っている人にはいざという時手助けを頼むことがある、とか、荷物の棚を開けると中の荷物が滑り落ちることがあるから注意しろ、とか当たり前のことを言う。

 新幹線のホームで入って来る車輛の写真を撮ろうとしていた外国人に「ピピピピ」と凄まじい警笛が鳴らされたことがあった。何ごとかと周囲にいた人は驚いたが、当人はけろりとしている。

 外国では、つまり突発的な異変によらない限り、事故の被害を受ける責任は、基本的には当人にある、と考えるのだ。人の撮れないようないい写真を撮り、際立った記事を書くためにアフガニスタンのタリバン地区にまで入ったフリー・ジャーナリストは、誰かが強要してそうさせたのではないだろう。強要されたとしても、どうしても嫌なら断ることができる。ヴィザがあれば合法的で安全というのは、西側社会の考えるルールで、そのルールは認めないのがアフガニスタンなのである。そうした状況をすべて予測するのがジャーナリストだし、子供ではないのだから結果のすべては自分で負うべきなのである。

 過保護は今日本のすべての社会にはびこっている。母親は高校生の息子に向かって、「太郎ちゃん、顔洗った? 今日は雨が降るかもしれないから、傘を忘れないようにね」と煩いことおびただしい。子供が自分で天気予報を見て雨具を持って行くかどうか決めればいいだろう。雨が降るとわかっていても、傘がめんどうくさければ、濡れて帰るという選択をするのが青春というものだ。普通の健康状態なら、雨で濡れたから死ぬということはめったにないのだから、ずぶ濡れになるという人生の感覚も味わわせてやるのが親心というものである。
 



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