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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 赤帽さん?雇用増進に復活してはどうか  
コラム名: 自分の顔相手の顔 480  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/11/06  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   東京駅などから赤帽さんというものが姿を消して久しくなった。

 私ならずとも最後の頃にはずいぶん悩んだ人がいただろう。自分より明らかに年上の人に重い荷物を持たせていいのだろうか、ということにいつも疑問があったのである。しかし私の知人の男性たちは明快な答えをする人が多かった。

 「もちろんそれは持たせた方がいいんですよ。自分で納得して、できるからやってる仕事なんだから。させる方がその人を尊敬してることになるんですよ」

 私が赤帽さんを頼んだのは、時間がなくて、乗り場がよくわからない場合だった。実は若い時には、私は時間ぎりぎりに駅に駆けつけて走っていたのである。そんな時、赤帽さんに頼めば、荷物も持って迷わずに近道を通ってとにかく目指す列車に乗せてくれる。

 しかし6年前に足を折ってからは、私はゆっくり時間の余裕を見て、駅へ行くようになった。まだ秘書を連れて旅行することなど考えないが、荷物は自分が持てるだけ、と決めている。そしてその頃から、老年パワーの旅行者たちは、宿泊先に荷物を送りつけておくことを上手に利用するようになった。これは私にできない。あらかじめ荷物を作っておく余裕など全くないからである。

 元気に溢れたおばさま旅行者たちは、リュックとスニーカーにも馴れた。それやこれやで赤帽さんは消えても何とかやって行けるようになったのである。

 しかし私は今再び、赤帽さんが駅に復活したらどんなにいいだろう、と思っている。外国の旅行者などで、大荷物を持っている人もいるし、赤ん坊を連れた女性、80歳90歳代の旅行者も増えて来た。小さな荷物でも、持って歩くのは大変だ。駅構内だけの有料車椅子サービスなどがあれば、乗る人は結構いるのではないか。高齢者の中には「小金」もお持ちの方も多いのだから、赤帽さん代くらい払えるのである。

 もし今、失業者が増えているのなら、改めて赤帽さん制度を作ったらどうだろう。列車の駅だけでなく、私は空港にも欲しい。国際線なら通関した後、空港の長い廊下をゲートまで荷物を持って歩く距離が長くて、疲れてしまう時もある。荷物用のカートが必ずしも見つかるとは限らない。今は保安上の問題がめんどうな時だろうが、身分調査をしっかりして、全国的に雇用増進に一役かうこともできるはずだ。
 



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