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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: 特殊法人見直し?民営化の流れに逆行も  
コラム名: 新地球巷談 3  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2001/10/29  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   小泉内閣が掲げる「改革」の大きなテーマ、特殊法人・認可法人の組織見直しについて、政府案がまとまり、今年末の整理合理化計画策定に向けて動き出しました。

 いま、民間企業は懸命なリストラに取り組んでいます。莫大(ばくだい)な税金を無駄に使わないため、廃止を含む法人のあり方の見直し、とりわけ民間のノウハウを導入する民営化には大賛成です。しかし、民営化の名の下に、流れに逆行する動きもでています。

 私が勤める日本財団は、地方公共団体が主催する競艇の収益金を財源にして設立された財団法人です。海洋関連事業や社会福祉に重点を置き、特に国際協力の分野では世界的に知られた組織であり、平等主義、前例主義を排し、先見性を持って常に新たな創造に取り組むことが特徴です。

 事業の1つに「マラッカ海峡の安全確保」があります。この海峡は大型タンカーが中東から石油を運ぶ航路にあたるなど貿易大国・日本の生命線ですが、海賊が横行する海域でもあります。また、先ごろ小泉純一郎首相が謝罪し結審した「差別を伴うハンセン病の制圧」には、30年間支援を続け、世界からこの病を完全制圧するため主要な役割を担っています。

 このほか「中国人医師2千人の養成」計画は20年間の継続事業です。冷戦構造下に始まった「チェルノブイリ原発事故被害者救援」は10年に及びました。多くの子供たちの救済と科学データの収集活動は国際的に高く評価されています。

 こうしたプロジェクトは、公平、平等を原則とする政府では為し得ないことでしょう。手前味噌を覚悟でいえば、世界的視野に立って臨機応変に活動するユニークな組織だと自負しています。

 日本財団は昭和57年、総務庁(現総務省)によって「特別監察」の枠に入り、特殊法人に組み込まれました。しかし、世界有数の非営利組織との誇りをもって、民間有識者で構成される評議員会、理事会を組織し、会長に曽野綾子さんを選びました。そして、時には評議員会、理事会で厳しい叱責を受けながら、情報開示を進め、透明性の確保に努め、今日に至っています。ちなみに会長職は無給です。

 さて、特殊法人問題が論議されるなか、最近になって日本財団を「独立行政法人」に移管しようと画策する動きが顕在化してきました。

 民営化の要締は、政府が人事権を放棄することが基本です。日本財団は現在、役員の人事は国土交通省の認可を受けることになっています。しかし、独立行政法人では、会長は総理大臣の任命制となり、専門性と広い知識を持った人という条件がつきます。結局は、お役人が最適となります。理事も任命された会長が選ぶことから、天下りの温床になる恐れが極めて強いのです。

 お役人は、出身官庁の人事に左右され、短期間での交代を余儀なくされます。20年、30年といった長期的視野での計画立案はむろんのこと、重要案件に予算を傾斜配分する日本財団の特徴は失われます。それでは民間的発想による活動が制約されることとなり、大胆で時宜を得た事業展開は皆無となることは目に見えています。

 お預かりしている紙面上に、あえて私が所属する日本財団を取り上げたのは、この問題が決して特異な例ではないと考えたからです。「民営化の流れに逆行する見直し」を放置しておいていいのでしょうか。日本財団は役職員こぞって特殊法人の民営化のモデルになりたいと願っています。みなさんの意見を伺いたいと思います。(日本財団理事長)
 



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