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著者: 山田 吉彦  
記事タイトル: 海峡をともす光 (2)  
コラム名: マラッカ海峡の町から 第10回  
出版物名: 海上の友  
出版社名: (財)日本海事広報協会  
発行日: 2001/10/01  
※この記事は、著者と日本海事広報協会の許諾を得て転載したものです。
日本海事広報協会に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど日本海事広報協会の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  先人の礎の上に新たな国際協力の体制が構築されていく


 金子氏は、78年から(財)マラッカ海峡議会の事務局長として、いくつかの航路標識の建設に携わった。そのひとつが、マレーシア沿岸のタンジュンギャバン灯標である。タンジュン(岬という意味のマレー語)ギャバンは、マラッカ海峡分離通航帯の西の入り口ワンファザムバンクから東へ60キロメートルほどのところにある。周囲には、浅瀬と岩礁が多くマラッカ海峡中部の重要なチェックポイントとなっている。

 タンジュンギャバン灯標は、海岸から100メートルほど沖合の、水深10メートルほどの海上に23年前に作られた。海岸線は、鬱蒼としたマングローブのジャングルであり、陸側からこの岬に近づくことは不可能である。マングローブを切り開き、湿地の上に灯台を建設するよりも海上に灯標を設置する道が選ばれたのだ。

 GPSもない時代に水平線すら見えずらい海峡内で、位置を割り出すことは難しかった。また、海底地形も複雑であり、基礎工事にも手間取り試行錯誤の工事が続いた。

 工事の難航もさることながら、金子氏が一番神経を使い重要視したのは、マレーシアの現地スタッフとの人間関係である。工期の間、狭いハシケの上で、ともに寝泊りしなければならない。現地スタッフの多くはイスラム教徒であり、生活習慣から食べ物まで、日本人とは全てが根底から違っていた。

 金子氏は、プロジェクトを成功させるには、スタッフが互いの宗教を認め合い、理解することが必須条件であると感じた。

 金子氏は、この経験をもとに、ワンファザムバンク灯標の建設、シンガポール海峡内の浚渫工事などの国際協力工事を成功させている。同氏は、現在もなお、シンガポール日本船員センターの所長として、海峡を利用する船員たちの利便に尽くすとともに、海峡の安全を守るために働く海峡沿岸国および日本の人々のアドバイザー役を果たしている。

 タンジュンギャバン灯標は、昨年、日本財団の資金援助を受けたマラッカ海峡協議会の佐々木生治氏を中心としたメンバーにより立て替えられ、新たな国際協力の灯がともった。

 先人たちの心の礎の上に、今新たな国際協力の体制の構築が進められている。
 

マラッカ海峡協議会の団体情報へ  


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