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夏の間にだけ本を読む訳でもないが、今年夏の旅先に持って行ってほんとうにおもしろかったのは、エドガー・バーマンという外科医の書いた『シュヴァイツァーとの対話』であった。あちこちのページが折ってあるところをみると私はその本を過去に80パーセントは少なくとも読んでいたはずなのだが、その時にどうしてこれほど感動しなかったのか不思議である。日本語の翻訳が出版されたのは1991年(今は絶版)で、それから今までの10年間に、私はアフリカを理解する眼をさらに深めることができた、ということかもしれない。
シュヴァイツァー博士のオルガンと聖書に関する造詣の深さなど、私には知識を深めようにも手の届かない領域は多いが、アフリカに関する現実的な姿勢に関しては、これは一つの教科書的な貴重な本である。
バーマンはアメリカのメリーランド州ボルティモアの外科医で、同時に「トム・ドゥーリーズ・メディコ」という、アメリカ人医師を途上国医療に短期間派遣する団体の会長であった。1960年、ランバレネのシュヴァイツァー博士から、臨時主任外科医の派遣要請を受けると、妻を伴って自ら志願するが、その動機は医学的な意図よりもむしろ「世紀の偉人」に対する興味だと告白している。
シュヴァイツァー博士については、「原始林の聖者」というイメージか、それを裏切られた失望か、どちらかに分かれるようだが、このバーマンは実に温かくおもしろげに、次のように書いている。
「博士は情け深くありながら情け容赦がなく、単純でありながら複雑、頑固一徹でありながら妥協的、大胆でありながら細心、しみったれでありながら気前がよく、おせっかいでありながら寛大、情に厚いのに冷淡で、かんしゃくを起こすくせに平静、繊細でありながら厚顔で、そしてなにより、多くの不完全さをそなえた完全主義者だった」
私たち現代人の多くは、まさにこの反対である。「人道的なことを言いながら現実の行動としては何もせず、気が小さいので世間の波に乗って反対することが市民の権利だと思い、芯からしみったれなので公金を平気で使い、おせっかいなので知りもしない他人の行動を批判し、冷淡以上に無関心で、徹底して人生に対する好みがなく体制におもねり、自分の意志を表す勇気は全くなく、そしてなによりどこにも欠点がないようでいて実は何一つとして積極的ないいことはしない人物ばかり」なような気もする。
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