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本調査は、日本財団海洋船舶部により、日本各地の博物館、造船所にアンケート調査を実施し、その結果を取りまとめるとともに博物館・資料館についてのデータベースを作成したものである。これは、「船」に関する収蔵品の初の全国的・網羅的な保存状況の調査である。
日本財団では、助成事業の重点項目のひとつとして
・「海」、「船」についての理解促進地域の博物館等の活動支援 ・地域の「海」や「船」による水に親しむ活動支援
を掲げている。
今回の調査は、重点項目に沿った事業の開発、掘り起こしのための基礎資料とすべく実施したものであり、特に「失われつつある日本の伝統?和船と船大工」といった側面にスポットをあてた。
≪ 博物館調査の概要 ≫
・全国の3,582館の博物館・資料館への郵送によるアンケート調査(2000年3月現在)
・調査項目
1.実物の船 2.船の模型 3.船の絵 4.船の絵馬 5.船の図面・板図 6.航海用具(櫓・擢・帆等)・航海図 7.船に関する本 8.その他
・結 果
回 答:2,900館(回答率81%) 和船(船)の資料あり: 631館 和船(船)の資料なし:2,269館
無回答:681館
≪ 船(主に和船)に関する収蔵品データベース ≫
Excel95を用いて調査結果をシンプルな一覧表にまとめたもので、Excelの標準機能としての抽出や検索、並べ替えなどの機能を利用すると、データの閲覧がさらに容易になるものとしている。
本データベースを貴重な日本の木造船技術の資料の保存・管理と次世代への文化的な遺産継承のため、個性豊かな地域の振興や活性化のため、さらには2002年から実施される「総合的な学習の時間」に伴い小中学生が自分達の地域の歴史や文化を調べるための基礎資料として活用頂きたい。
≪ 考察?今後の課題 ≫
今回の調査における各博物館等の回答は、和船だけでなく、船という概念で回答しているところが多く、内容は古くは遺跡から発掘された木造船の破片から近代の動力船までと幅広い。また、船の絵が描かれている写真・絵の背景に描かれている船、ブリキ製の船のおもちゃなど資料の中も広範囲にわたっている。そのため船の資料「あり」と回答した館は、2,900館中、631館という結果になった。(回答の有った博物館の21.7%、約5館に1件の割合。)
しかしながら、個別にデータを見れば収蔵品は、収蔵数上位の博物館に集中しており、その他の博物館の館ごとの収蔵品は少ない。調査結果からは船について体系的に収蔵品を展示している博物館は限られていることがうかがえる。地域市民が「船」や地域の歴史と船との係わり等を知る上で展示品の充実が今後必要ではないかと思われる。
四方を海に囲まれている日本にとって、「和船」、「船大工」、「漁労習俗」等の社会的な資産とも言える貴重な資料が失われつつある現在、博物館による文化の継承が今後ますます望まれる。
≪ 木造船建造に係る船大工及び機材等の調査の概要 ≫
・(財)日本小型船舶工業会(現(社)日本中小型造船工業会)の協力を得て、同工業会会員684社を対象にアンケート調査(2000年2月現在)
・調査項目 船大工の氏名、年齢、連絡先 建造した船の種類及び名称 進水式のしきたり
・結 果 回答:215社(回答率31.4%) 船大工有:89社 船大工数:218人 平均年齢:65.4歳 機材等の提供 可:1社 一部可:38社
≪ 考察?今後の課題 ≫
和船の「船大工」として生計を立てている人がほとんどいなくなっている現在、小型船中心の造船所を情報の手がかりとし、サンプリング調査を行った。日本における「船大工」の全数調査ではないものの、平均年齢や地域ごとの分布などを知る上で十分なサンプル数と思われる。
本調査によれば、和船の建造ができる船大工の平均年齢は、65.4才で、60代が44%、70代が31%と高齢化が進んでいることがわかる。
和船の原形をかろうじてとどめていた漁船も、昭和40年代にはFRP船に取って代わられ現在は沿岸漁業で使われることはほとんどない。さらに漁獲量の減少、埋め立てによる漁場の減少などによる沿岸漁業の衰退で和船の需要はほとんどないといってもよい。したがって「船大工」としては、生計がたたないし、後継者も育たないといった現状がある。その技術で収入を得て生活していけることは伝統を守り、受け継いでいくために欠かすことのできないことであり、そういったことからも伝統的な和船の造船技術は消えつつある。
日本人男性の平均寿命77才を考えるとその技術を引き継ぎ伝統を守っていく職人を育成することは困難だろう。
現存する「船大工」の技術、「和船」の文化を後世に残すことを考えれば、あと5年間ぐらいがその猶予期間ではないだろうか。(あと10年で和船の技術は消える)
また、機材・道具については、89中38社が提供できる(一部可を含む)と回答していることから博物館、資料館から造船所に積極的に働きかけ保存、展示を行っていくことも貴重な文化遺産を残す方法のひとつと思われる。
* 本調査報告書並びに「船(主に和船)」に関する収蔵品データベースについては、日本財団ホームページ上にて公開しているので活用頂きたい。
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