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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 新疆の旅?ロバが担う中国の建設と発展  
コラム名: 自分の顔相手の顔 462  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/08/28  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   中国には何度か行ったことがあるのだが、いつもお上りさんの域をでない。しかしこの夏は、トルファンという所まで2泊3日の寝台列車の旅をし、それから車でタクラマカン砂漠を縦断して、中国領の一番西の端のカシュガルまで、三蔵玄奘の道、シルクロードを約3週間旅行したので、少しは田舎の生活に触れたが、それでもなお、素人の旅行者であることに変わりがないのは事実である。

 素人はくだらないことに感心する。

 この新彊ウイグル自治区という所は、昔からの交易路はたくさんあったが、砂礫砂漠の土地も多く、遺跡だらけではあるが辺境にはまちがいない。中国の発展は眼を見張るものがあるが、一日に700キロを走るような自動車旅行をしていると、途中のガソリンスタンドで、すばらしく自然なトイレを使わなければならないこともある。掘った穴の底が見え、そこにコンクリートの板が渡してあるだけだから、自然の荒野の中で用を足した方がずっと快い、と同行の若い世代も知るようになるのである。

 しかし、土地の人々は砂塵と乾燥を防ぐために、涙ぐましいほど、熱心に植樹をしている。新彊では主にポプラである。木と木の間隔が、時には40センチくらいしかないほど密植しているが、それでも木は影を作り埃を防いでくれる。落とした枝はちょっとした炊事用燃料に、幹は建材と厳密に使われている。

 ポプラもけなげだが、もっとけなげなのがロバである。知らない人は、こうした土地は田舎だから、住民はすべて歩いているか、せいぜいで自転車に乗っているのだろうと思うかもしれないが、それは大間違いだ。たいていのうちが自家用車を持っている。つまり自家用ロバ車なのだが、市の立つ日など、ロバ車の上に、羊やメロンや粉袋などと共に、女房子供を乗せて市場へ向かう車列が延々と続く。ガイドさんが、「新彊では、人の数よりロバの数の方が多いでしょう」と言ってのけたくらいだから、経済の馬力は、つまりロバによって推進されたのである。

 時々、荷台の上で微風を受けながら眠りこけている幼児の姿などを見ると、「ああ、あの子は天国の境地を味わっているんだろうな」と思う。

 夫は「中国の建設と発展は、ロバなくしてはできなかったなあ。歴代の毛沢東先生や●(とう:登におおざと)小平先生は国家功労者としてロバを表彰したことがあるんだろうか」と嬉しそうにたわけたことを言っていた。
 



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