共通ヘッダを読みとばす

日本財団 図書館

日本財団

Topアーカイブざいだん模様著者別記事数 > ざいだん模様情報
著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: 靖国参拝問題?「ひきこもり外交」象徴  
コラム名: 新地球巷談 1  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2001/08/27  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   この夏、注目していたことがありました。それは、小泉純一郎首相が公約に掲げた靖国神社の公式参拝でした。

 8月15日に日本国の総理大臣が参拝することで、日本の外交に対する諸外国の見方が根本的に変わると考えていたからです。「どのような無理難題であれ、外国が強硬な態度でのぞめば日本は腰砕けとなり、意に沿わぬことも飲む」というのがいまや国際的な常識となっています。こうした国際常識を覆す千載一遇の機会を13日の参拝によってやすやすと放棄してしまったのです。残念といわざるを得ません。

 靖国の問題は、狭量なナショナリズムでも、ましてや軍国主義の復活でもありません。日本人が日本の国のために命を捧げた方々に感謝し、哀悼の意を表するものです。中国や韓国の人々と意見の違いや、認識の相違があるのは当然でしょう。だからこそ、日本国として靖国をこう考えているのだという意思を示すことが大事なのです。

 人との接触を避ける「ひきこもり」が社会現象となって久しく、日本全国で120万人もの「ひきこもり」がいるといわれています。戦後の日本はまさに国をあげて精神的「ひきこもり」になっているのではないでしょうか。

 不幸な記憶がそうさせるのか、戦後の日本は日本の在り方について他国と真剣に議論することを避けてきました。自分たちの意見はこうなのだと主張する前に、相手の意見を無批判に受け入れ、その場を取り繕うことに汲々としてきました。そして四方を海に囲まれた地理的条件のもと、経済至上主義で稼ぐことだけに腐心してきました。それを世界の中の精神的「ひきこもり」だといいたいのです。

 私はこれまでさまざまな外国の方々と接触してきましたが、皆一様に日本人の日本に対する考え方を知りたがっていました。私は先ごろ、中国から人民解放軍の若い兵士20人の日本研修を手伝いました。彼らは、日本と中国との考え方の違いがあることは当然だとした上で、日本側の主張を知りたがっていましたが、率直な話は聞かれなかったと話していました。

 外交は駆け引きであり戦いです。本来違う国どうしが、歴史認識や文化に対する価値観で一致するはずがありません。外交交渉での決裂は決して恥ずかしいことではありません。先日のジェノバ・サミットでの米仏首脳の会談でも、シラク仏大統領は席を立ちました。戦上手です。激しい議論があってこそ、双方の立場が分かるのです。

 私が北朝鮮に日本人妻の一時帰国の交渉に出向いた際、パーティーが用意されていました。その時、餓死者が出るほど食糧事情が逼迫していたので、私は「北朝鮮住民と同じ一日茶碗一杯の粥以上のものは食べない」と宣言し、パーティーは中止になりました。そうしたら逆に言うことはわかった」と信頼を得、日頃見せない飢餓地帯も案内してもらいました。帰国交渉でも、一旦は決裂し、深夜改めて北朝鮮側から話がきたのです。

 唐家璇・中国外相に「ゲンメイ」されても恥とも思わない外相や、よりによって教科書問題や靖国で微妙な時期に訪中、訪韓し相手の意見だけを拝聴してきた与党幹事長など理解に苦しみます。自分の意見をはっきり言えない人は、決しで外国から信頼もされず理解されることもないのです。
 



日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION
Copyright(C)The Nippon Foundation