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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 決断力?首相はただの行政官ではない  
コラム名: 自分の顔相手の顔 461  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/08/22  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   自ら国民に向かって、自国民の資質に対して、失望と悲しみを表明したのは、マレーシアのマハティール首相である。

 首相は20年の任期の間にマレー人の怠け者の本質を変えられなかったのは、自分の失敗だったと語った。首相の在任20年を祝う晩餐会の席上でであったという。

 「私は、マレー人の意識を変えることができなかった」

 マレー人は同じ国内に、中国人社会がいいお手本としてあったにもかかわらず、何も学ばなかった。彼らは勤勉の価値を少しも身につけなかった。

 中国系の人々は、肥料を使って、上質の米を生産する。しかしマレー人は肥料を売って暮らすだけだ。これ1つをとって見ても、どんなにマレー人が中国系の人たちより遅れているかがわかる。

 「なぜ我々は、中国系社会から農業で成功することを学ばなかったのか。我々はこんなにも長い間、隣同士で住んでいたのだから、そのチャンスはいくらでもあったはずだ。

 マレー人は、一生懸命に働くことはいいことだ、とわかっている。しかし実行しない。できなかったのではない。しようとしなかったのだ。

 我々が変化したとしても、われわれはあくまでもマレー人だ。この点は、私の最大の失敗であった」

 マハティール首相は今期で首相の座を去ることになるという。次の首相の座に立候補しようとする人に対して彼は忠告する。

 「政治の世界には、永遠の友も永遠の敵もいない、のが普通だ。しかし首相というものは、他人を踏みつけにしたり、他人を引きずり下ろしたりして、トップの座に着いてはならない」

 彼によると、首相はただの行政官であってはならない。社会をよくするための変革をもたらすものでなければならない。

 かつて首相に就任する時、彼は「時には我々は、夜の闇の中で問題にぶつかるだろう。しかしそこから抜け出すには、積極的、建設的であることだ」と言った。その信条は今も変わっていないようである。

 首相は健康にも問題があるという。その点に関しても、決断力のある首相は言う。

 「もしも医師が決断を下すのを恐れているなら、患者は死ぬかも知れない」

 もちろん患者を国家にもたとえているのであろう。
 



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