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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 顔を隠す?町中では銀行強盗と疑われる  
コラム名: 自分の顔相手の顔 460  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/08/21  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   ジェノバ・サミットの時、射殺された反資本家抗議デモ隊の1人は、フードの下に、赤い出眼帽をかぶっていたが、イギリスの警察はこうしたフードを禁止する方向に制度を整備するという。そしてこの動きは、欧州各国やカナダなど、サミット開催の可能性のある国の注意を引いている。つまり、顔を、マスクや、フードや、バラクラバスと呼ばれる顔以外の頭を完全に覆うウールの頭巾や、ヘルメット、ゴーグル、ガスマスク、スカーフなど、個人の識別ができないようなもので隠して、衝突の起きそうな地域に入ろうとする人にはまず、顔を出すように命じる。そしてもしそれを拒んだら、脅しの理由で逮捕され収監されるようにする方針らしい。

 警察や保安部隊は、もし彼らが、カメラによってはっきりと個人を識別できるように顔を晒していたら、決してあのような暴挙には出なかっただろう、と言っている。

 イギリスでは去年と今年のメーデーに激しい暴動を起こした活動家のうち、顔を晒していた約100人は、騒ぎの後で捜査され、逮捕され、起訴された。しかし覆面をしていた人はついに捕まらなかった。最近では、動物愛護運動の人たち、アメリカのミサイル配備に抗議して軍の基地に侵入した活動家たち、キツネ狩り反対のデモをする人たち、など、すべて顔を隠していた。

 イギリス当局は、デモ隊から覆面をはずさせることは、EUの厳しい人権憲章を犯すことにはならない、という。なぜなら警察は、集会の自由を保証し、彼らが穏やかなやり方で意見を表現することまで禁じてはいないからだと言うのである。警察がその必要を感じているのは、犯罪を防ぎ、デモ隊が秩序を維持するためである。

 昔から、いいと思うことをするのに、なぜ顔を隠すのだろう、と思ったことはある。若者たちが堂々と顔を晒して抗議のデモを行い、警官隊が彼らを暴力的に排除すれば、同情は有効にデモ隊に集まるだろう。何ごとでも、顔を隠してやらなければならないことは、ろくなことではない。

 私も一度だけこうした出眼帽を買ったことがある。黒だったから、それを被って人前に出れば、まず銀行強盗を疑われるのはまちがいなかった。私はサハラに入る前で、出眼帽はフランスのスーパーの、砂漠用品の売り場に並んでいた。ただ出眼帽には町中では決して使わないようにという注意書きがあった。きっとこちらが何かをする前に射殺される危険もあったのだろう。
 



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