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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 金屏風と看板?簡単に節約はできたものの  
コラム名: 自分の顔相手の顔 458  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/08/14  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   私の働いている日本財団は、7月末に新しい社屋に移転した。日本NCRという有名な会社の本社を買ったので、1962年建築の古い建物である。吉村順三氏の名設計を壊すに忍びず、直したり、張ったり、継いだりして、再び数十年使うつもりである。

 「新しい旧社屋」は、入手並びに使用整備のための経費一切が、いくらかかったかをも含めてご報告のお広めをしたが、裏話で幾つかおかしかったことがある。

 ほんとうに身内とご近所だけの小さなおひろめの会の前に、業者から、ごちそうのほかに20万円ほどの予算がついて来た。

 「何ですか、これは」

 と私は尋ねた。

 「パーティーの時の小さな演壇の上に上げる『日本財団新社屋竣工祝賀会』という看板と、金屏風の借り賃と、花の飾りなどです」

 「誰か結婚するわけでもないのに、金屏風なんて要ります?」

 私は非常識で大人げないことを言った。

 「看板も要りませんよ。来てくださる方は、皆これが竣工のご報告会だということを知って来てくださるんですから、皆知ってることはわざわざ書く必要ないんです」

 1分もかからずに、簡単に20万円が節約できた。

 しかし私にも一抹のためらいはあるのである。私は小人だから簡単に20万円をケチれた、と喜んでいるが、業者はこれで儲けの口が減ったのだ。日本経済を活性化しようとするならは、こういうところにもいささかのむだ遣いは必要だ、などと、経済通は言うのだろうな、という感じである。

 パーティーは新しい旧社屋の新装なった昔からの食堂で行われた。気がついた人がいるかどうか知らないが、一隅には、私が前夜暗くなる時間を待ってお供して、古い社屋からお移り頂いた神さまが、祀られている。

 神棚を正しい方角に向けるには、少々騒々しいがこの場所が一番適切だそうで、私はやっと安心もしたし、さらに別の理由で再びもしたのである。それはお守りくださる神さまが、ここなら毎日、働く職員の若者たち全員をごらんになれてお寂しくないだろう、と思えたからである。それにいつも職員を身近で守ってやっていただきたいと願うと、神さまが食堂にいて頂くことが、(庶民的感覚では)一番自然でありがたいのであった。
 



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