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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 少年殺人犯?釈放に怯える犯人と家族たち  
コラム名: 自分の顔相手の顔 455  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/08/01  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   今、私の手元にある6月25日の英字新聞には2人のかわいらしい少年たちの写真が載っている。1993年に撮影された少年殺人犯、ジョン・ヴェナーブルスとロバート・トンプソンである。

 2人は8年前、当時わずか2歳だったジェイムス・バルガーを誘拐し、いためつけたあげく殺害した。法廷は初め15年の刑を言い渡したが、昨年、首席判事によって8年に減刑され、今回2人は出所することになった。それに伴って、18歳未満の殺人犯70人も釈放される可能性が出て来た。

 イギリスには今、10歳から18歳までの未成年の殺人犯128人が収監されている。そのうち108人が、獄中で成人を迎える。20人はまだ18歳未満である。50から60パーセントが権利を盾に出所を申告し、恐らくすべてが許可されるだろうと言われている。

 しかし18歳になったばかりのジョン・ヴェナーブルスの44歳の母・スーザンは、「1月もしないうちにジョンは殺されます」と怯えている。2人の殺人行為に憤激している「追手」が、必ず2人の所在を見つけ出して殺すだろう、と信じているのである。」

 イギリス当局は、事件当時10歳の子供だからと言って、顔写真の公表を憚ったりはしなかった。18歳になった2人がどんなに変わったか私には想像できないが、2人は当局から全く別の名前、偽の出生証明、新しいパスポートをもらい、出所後は2人別々に行動するように言われているそうだ。それでも2人の釈放が新聞やテレビのトップニュースとして報じられた後では、彼らがイギリス社会のどこかで前歴を隠して溶け込んで粋らすことはほとんど不可能に近いだろう、という。

 イタリアとスペインの雑誌が、成人した2人の最初の写真に対して約900万円の懸賞金を掛けているから、2人の顔写真がインターネットのウェブサイトに載るのは、時間の問題だろう、と警察も言うのである。

 2人の若者も、釈放後の状況に対して「絶望的に怖がっている」と言う。トンプソンは泣きだし、ヴェナーブルスは、出所することは「自殺行為」だと言っているという。

 オーストラリアは2人の入国を万全の構えで防ごうとしている。労働党の移民管理局報道官も言う。

「オーストラリアは最早、犯人の捨て場ではない。我々は150年前にそれを止めたのだ」

 子供たちには「殺人を犯すとこの地球上に住む所がなくなるよ」と教えるべきだろうか。
 



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