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小泉首相が靖国神社に参拝するかどうか、ということが大きな問題になる前に、私は無責任に物見高い方だから、世界各国はどうしているのか知りたいと思う。
たとえばアメリカ、ドイツ、イタリア、イギリス、中国、韓国、北朝鮮、インド、エジプト、アルゼンチンなど、どこでもいいのだが、戦没者の墓地には大統領や首相が参拝しているのかどうか、調べてちゃんと教えてくれたらどうか、と思う。まったく世の新聞各社は(私と同じくらいに)怠け者だ。
私は他人がそうするから自分も同じようにしなければ落ち着かない、という性格では全くないのだが、多くの人がそうすることで幸福を感じることはしたいと思っている。
私の勤めている日本財団は近く新社屋に引っ越す。と言っても新社屋は古いビルをきれいに修繕したものなので、「古い新社屋に引っ越す」というのが正しいのか「新しい古社屋に移る」というのが正しいのか、私は言う度に迷っている。
ともかく今までの社屋にお祭りしてあった小さな神棚を、古い新社屋にお移しするのだ。私がカトリックのせいか、職員は私が財団の神事に出席するのを初め少し遠慮していたが、私は神事だけは出席するのである。それが職員の幸福につながり、聖書の精神でもあるのだ。
神事は夜に行うものだという。神官が白布にくるんだご神体を捧持してお移しする。 靖国神社には、神道も仏教もキリスト教もそれぞれの信者がいっしょに祭られている。数人のキリスト教徒の遺族がここに祭られたことを怒ったが、亡くなった方たちが、宗教の違いによって争うとは私は考えていない。
靖国神社に祭られた人たちの99.9パーセントまでが、普通の兵士である。A級戦犯の数など一体何人なのか。数人のために残りの人にも参らないというのは筋が違うだろう。それに日本の古来の神道では、死者はすべて神になるというのだ。キリスト教でも「裁きは神に任せなさい」という絶対の掟がある。死んだ人が地獄へ行くか天国へ行くかは、人間の決めることではないのだ。なぜなら人間は、その人の生涯の全容を知り得ないからである。それができるのは神か仏だけだ。
どこの国でも、その国の人たちの信仰の分野に立ち至ると恐ろしいことになるし、それはほとんど許されないことだということを、私はインドや中近東を旅して体で知った。
それに、戦いで死んだ人を悼むことほど、確実な戦争忌避の決意に繋がるものはないのである。
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