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去年の秋、アフリカのカメルーンに入った時、英語を話すガイドさんに会った。私たちはカメルーンヘ行くことが目的ではなく、コンゴからお隣のチャドヘ行くのに直行便がないので、やむなくカメルーンで飛行機待ちをしていたのである。 「カメルーンには日本人は来ますか? 観光客はあまり来ないでしょうね」 と私が言うと、 「いや、けっこう来ますよ。そんなに多くはないけどね。お客さんたちの行くチャドにも行ってますよ」 私はほんとうに驚いた。チャドには商社マンが一人もいない、と言っていい。住んでいる人はNGOの数人と、後は私の友人のカトリックのシスターたちだけだ。 「どういう所を観光するんですか?」 と私は尋ねた。 「観光はほとんどしないんですよ。午後着いて、翌朝出発というようなスケジュールですから」 私はもう一度びっくりした。 「じゃ、何のためにいらっしゃるんですか?」 「パスポートに入国のスタンプを押してもらうためですよ。それをコレクションにしているんですよ。だから観光は全く要らないんです。スタンプが目的ですから」 そういう趣味の人が、一人や二人でないから、こういうツアーが組めるのである。 人の趣味をとやかく言う訳ではないが、何というもったいないことを、と私は思うのである。私は通過か一晩寝ただけの国を「行った」ことにはしていない。 もっとも私自身、ルワンダという国のヴィザに銀色シールが張ってあり、角度によってゴリラの顔が浮かび上がるのを、子供のように嬉しがった記憶があるから、パスポートのスタンプ・コレクションの趣味を笑うことはできないかもしれない。 テレビを見ていたら、肥満についての特集番組もあった。その番組の男性のキャスターは、外見はほっそりしているが、就職してから四キロ半肥って、お腹の周囲に肉がついたのだという。それは外食のせいもあるらしい。マスコミ関係者というのは、ラーメン、カツ丼、お酒、と高カロリーの食事を何十年と不規則に仕事先で取り続けるのである。 「外食の肥満はどうしたらいいでしょう」 と彼が質問すると、番組の回答者のドクターはこともなげに答えた。 「まあ、必ず残すことですね」 それが正解だし、そうする他はないのである。しかし私はどうも釈然としない。糖尿病、肥満、高齢者、などに対しては、量の半分のメニューを作る制度がそろそろできて当然である。地球上で、多くの人たちがまともに食べていないのに、こちらは残すのを承知で食事を注文し、食べ物を捨てる。不合理でしかも思い上がっている現実というのは、どこか端正でもなく、楽しくもないのである。
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