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NHKの番組が「NHK・ワールド・テレビ」(43チャンネル)の名称の下に「BBC・ワールド」(13チャンネル)「CNN」(14チャンネル)と並んでシンガポールのケーブル・テレビを通して庶民の生活に入るような時代になると、多分この国に住む三百万人に近い国民は、これが日本なんだと思って内容を見ているだろうと思う。 一つのサンプルに過ぎないが、八月五日朝日本時間七時から八時まで「NHK・ワールド・テレビ」を見て、それから「BBC・ワールド」に切り換えて二つを比べた。BBCの初めの三十分間は「USAダイレクト」でアメリカの国内問題。ミシガン州知事選挙、子供のギャンブル七パーセントに達する。アイオワの麻薬摘発。ブラック・ボックスを自動車にも積む計画。天気予報はまずアジアから始まって世界全体。 世界は問題山積だ。インドとパキスタンは話し合いをするポーズを見せながらカシミールでは戦闘を続けている。インド人たちは核実験の成功を祝って、これこそ国威の発揚とばかり勝利の歌を歌っているというニュースも(別の日にではあるが)報道されている。 先頃のインドネシアの騒乱では百六十人のチャイニーズ系の女性たちがレイプされたことにもBBCは触れる。チャイニーズ系インドネシア人のお金が今後どれほどどこに流出するか。それがアジア経済の流れを決定する大きな要因の一つである。 九時、「CNN」は深刻なコソボ問題を報道し続ける。数千人の難民が出ている。救援に働くヨーロッパ人は胸に赤十字と赤新月と二つのマークを並べている。これは大切なポイント。その間に「NHK・ワールド・テレビ」はずっと呑気に水のボトルを何十本と並べて、どれがおいしいかという優雅なお話。 九時四分「BBC・ワールド」は、イラクのサダム・フセインが南アのマンデラと会ったニュースを報じる。化学兵器に対する立入り検査もすんなりとは行っていないらしい。私の英語が不十分なのでわからない部分もあるが、サダムはマンデラに何を話したのか。この時期、国連コレスポンデントのロブ・ワトソンという人の分析はライヴである。 チェコのハベル大統領(六一)の病状が重篤になった。日本のテレビはそれを報道したか。関東甲信越地方の交通情報をシンガポールで流してどうなる。海外にいる日本人でも必ずしも英語がわかるとは限らない。テレビの海外版はその人たちのためにアメリカ、イギリス並みの情報を与え、対外的にはアジアの報道の先端を担うべきであろう。 電波は個人のものではなく、国際的な平和的戦略の武器である。別に新しい展開があるわけでもない二週間前の毒入りカレー事件をまだ報じているローカル新聞のような国際放送が許されるわけはない。日本の(歴代)総理が国際社会に出て行って、何の思想も信念もなく、強力な政策の発言もリーダーシップもないという批判があるなら、今のNHKの海外放送番組の内容はまさにそうした顔のない総理のイメージ以上に怠惰である。
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