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九月二日、農水省でちょっとした騒ぎがあったという。高木勇樹事務次官が記者会見をする部屋に、日の丸をおいたのである。 九月三日付けの朝日新聞は次のように奮いている。 「一般紙などが加盟する『農政クラブ』では、設置をめぐって論議を続けていたが、国家行事ではない記者会見の場での日の丸設置に反対する者が大勢を占めており、『慎重な判断』を求めたばかりだった」 この日の丸持ち込みに反対したのは朝日新聞、共同通信、北海道新聞であったという。読売新聞、産経新聞、NHKは、前記三社が中心になって行われた申入れ文書に同意しなかった、と記事には書いてある。 事務次宮の記者会見室の管理責任者はこの場合農水省なのだから、農水省にその内部のしつらえをする「自由」と「権利」があるだろうと思うのだが、その自由に記者たちは文句を付けたのである。もちろんそうは言っても「自由」が良識を逸脱すれば、公的な場所だけに困る。つまりヌード写真を飾ったり、ナチスの制服をアートとして使ったり、事務次官が個人で信仰する神様を祀ったりするのは、「逸脱」に当たるだろう。 しかし官庁といえども、そこを管理する人のいささかの趣味が入るのも、人間的に当然である。花の好きな人は花の鉢を置くだろうし、知恵遅れの子供からその土地の木材で作った木彫を贈られたりすれば、オフィスに飾りたくもなるだろう。 常識の範囲なら、人の部屋に何を飾るな、と他人が言うことではない。 この記者たちはほとんど外国の事情を知らない、としか思えない。世界中、先進国でも途上国でも、自由主義国でも社会主義国でも、役人、会社や財団の役員、ほかあらゆるいささかでも公的な役目を負った人たちの執務室には、非常に多くの場合、国旗と国家元首の写真が飾ってあるのを、彼らが知らない、ということである。それはマスコミの場合、知識の貧困と言っていいだろう。 大統領や閣僚の接見の場に国旗を置くのは当然である。なかったらむしろ奇異に感じるだろう。しかし弁護士事務所でも、スーパーの経営者の事務室でも、診療所の所長室でも、スポーツクラブの受け付けでも、自転車屋の店先でも、国旗と国家元首の写真が飾ってあるのは、全く普通のことなのだ。 それらの国家の中には、大統領が秘書と執務室でHしたり、汚職の金を取ったり、一家眷属を重職につけたり、今でも国の内外で殺し合いをしたり、武器を売りまくっている国だって決して少なくはない。社会主義を売り物にしている国の指導者は、北朝鮮のように必ずと言っていいほどの専制君主で特権階級だが、恐らく国中、国旗と主席の写真だらけだろう。それでも、世界中がそれぞれの理由で国旗を飾っていることを彼らは知らないのだろうか。
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