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著者: 山田 吉彦  
記事タイトル: マ・シ海峡は日本の安全に直結  
コラム名: 日本の生命線を守る 1  
出版物名: 海上の友  
出版社名: (財)日本海事広報協会  
発行日: 2000/01/01  
※この記事は、著者と日本海事広報協会の許諾を得て転載したものです。
日本海事広報協会に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど日本海事広報協会の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   マラッカ・シンガポール海峡は、日本の生命線。この海峡を航行する日本の船(千トン以上)は、年間延べ七千隻に上る。とくに、日本人の生活を支えている石油の約八〇%が、この海峡を通り輸入されているのである。
 マラッカ海峡・フィリップチャンネル。航路が狭く、屈折しているこの海域では、暗礁を避けるため、スピードをおとし、慎重に航行して行かなければならない。
 周辺には、多くの島々が点在し、また、複雑な海底地形が天然の漁礁となり、漁を営む人々の生活の海ともなっている。
 航行者は漁船や海峡を横切る小型船を避けることにも細心の注意を必要とし、航行の難所中の難所といえる場所である。また、海賊の多発海域として船乗り達に恐れられてきた。
 一九九九年一月、このフィリップチャンネルにおいて大型タンカーが海賊に襲われる事件が起こった。高速ボートで近づき、乗り込んできた海賊により、ブリッジにいた乗組員の身柄が拘束され、船内の金品が盗まれた。
 海賊に襲撃されていた数分間、狭く複雑な海域の中で、安全な操船を保証する人間がいなくなってしまったのである。
 この事件は、シンガポールの海運関係者に強い衝撃を与えた。もし、操船者を失ったタンカーが座礁し、満載しているオイルが海峡に流出したとしたらどうなるだろうか。フィリップチャンネルとシンガポールは、目と鼻の先。わずか数マイルの距離である。
 この船の後を数珠つなぎとなり、海峡に入ってきた船は、フィリップチャンネルの手前で停船を余儀なくされる。大型船は引き返すこともままならず、立ち往生し、船舶同士の接触事故などの二次被害が続発する。
 油除去作業が始まる夜明けまでに、海峡を漂うオイルはマレーシア・シンガポール・インドネシアの海岸に漂着するであろう。
 大量のオイルに覆われた海峡は、数日間にわたり封鎖され、流出油の回収作業が進められる。
 コンテナ扱い高、世界一、二を誇るシンガポール港は、運び出せない荷物と身動きが取れない船舶にあふれ、機能を停止。その影響は、香港など周辺の港とアジア諸国の物資の流通に大混乱を招くことになり、わが国を初めとし景気の低迷に苦しむアジア諸国の経済に大きなダメージを与えることにつながる。
 これは、危惧されているシナリオの一部であるが、海賊対策をはじめ、安全な海上交通を脅かす問題は無視できないところに追っている。マラッカ・シンガポール海峡の航路の安全を維持して行くことは、日本経済の安定に直結する問題である。
 すでにマ・シ海峡の航行安全の確保に関する多くの問題が、各国、各国際機関の場などで検討され、改善されてきた。
 一九九八年には、マラッカ海峡東部のワンファザムバンクからシンガポール海峡の西側まで、およそ五百キロメートルにおよぶ分離航行方式が、決められ、沿岸国による航行管制協力が行われるようになった。これは、海峡における航行安全の確保にとって大きい前進である。
 日本財団では、一九六九年以来、三十年以上にわたり、マ・シ海峡の安全確保のため、さまざまな協力を行ってきた。水路測量、航路浚渫などのサポートをはじめ、航行者への支援策としマラッカ海峡協議会を通じ、四十五基の航路標識の設置を行っている。
 また、ハード面のみならず、人的貢献をめざし、日本海難防止協会にシンガポール連絡事務所を設置し、活動を開始している。
 ここにおいて、総合的に航行の安全、ひいては日本の生活の安定を守るためには、海賊問題も解決しなければいけない課題となってきたのである。
 日本財団では、民間べースの各国、各機関との協力の接点とし、海賊対策に取り組んでいるのである。
 



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