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著者: 山田 吉彦  
記事タイトル: 第2海堡で実践的な消防訓練  
コラム名: 日本の生命線を守る 5  
出版物名: 海上の友  
出版社名: (財)日本海事広報協会  
発行日: 2000/02/21  
※この記事は、著者と日本海事広報協会の許諾を得て転載したものです。
日本海事広報協会に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど日本海事広報協会の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   昨年五月二十日、シンガポールの船社保有の大型客船「サン・ビスタ号」(三万四百四十総トン)が、マラッカ海峡内のペナン島の南約五十五カイリの海上で炎上、沈没する事故が発生した。
 「サン・ビスタ号」は、五月十六日にシンガポールを出港し、プーケット、ペナン島などを周遊する五泊六日のクルーズを予定していた。
 同月二十日午後三時十五分ごろ、機関室主配電盤から出火、またたく間に火は船内に広がり、翌日午前一時二十二分、「サン・ビスタ号」は全長二百十四メートルの巨体をマラッカ海峡の海底に沈めていった。
 事故発生時、乗客四百七十二人、乗員六百三十二人の合わせて干百四人が乗船していたが、近くを航行していた船舶や、マレーシア海軍・水上警察などにより、乗客、乗員全員が無事救助された。
 乗客は米、仏、独、露、日本など二十カ国から乗船しており、たちこめる煙の中、逃げまどう人々は、さまざまな言語で逃げ場を求め、泣き叫んでいたことだろう。船上火災というと、一昨年一大ブームを起こした銀幕「タイタニック」を思い起こす人も多いのではないだろうか。氷山に衝突し、浸水と火災を起こし沈没した「タイタニック号」。迫り来る炎と煙、逃げ場をふさぐ海水。乗客を導くはずの船員の動揺。そして、多くの人の尊い命が、冷たい海に消えていった。
 東京湾上富津岬の沖に第二海堡という小さな島がある。第二次世界大戦中は、東京を守る海上の要塞として利用されていた。昭和五十二年、海上で発生する油流出事故などの防災対策を行う機関である「海上災書防止センター」により、この地に日本で唯一の海上消防演習施設が建設された。
 この施設の設置の目的は、船上で火災や爆発が発生した場合の対処策の実地訓練を行うことであり、船橋や甲板などに見立てた模擬施設を持ち、実際に火災を起こし、消火訓練を行う実践的な海上防災訓練施設である。
 平成十年三月、第二海堡は、日本財団の支援で全面リニューアルを完了し、新しい総合消防演習施設として生まれ変わった。改装前の施設は、十九年間、防火訓練により酷使され、潮風による劣化もはなはだしくなっていた。
 リニューアル工事では、より複雑化してきた海上災害に備え、亀裂甲板、タンク噴出、液化ガス噴出などの事故対応および沿岸部の石油コンビナートで火災が発生した場合の対応訓練や、タンクローリー火災の消火訓練も体験できる複合施設に改修された。
 訓練は海上火災、船上爆発、油流出などの事態に直面したとき、正確な情況判断を行い瞬時に適切な対処を行うことで、被害を最小限に押さえるための知識の習得と実践を通じて体得するカリキュラムが組まれている。コースも海上災害全般への対応を実習訓練する標準コースをはじめ、緊急時に組織的な対応を指揮できる能力を育成する指揮運用コース、「サン・ビスタ号」の事故のような客船で火災が発生した場合の旅客の避難誘導、負傷者救助、消火法の訓練を行う旅客船コースなど船員たちの必要に応じたメニューが用意されている。
 実際に船上火災を体験した人は少ないことであろう。燃えさかる炎、立ち込める煙、焦げ付くような熱気に接し、消火活動を行うことは並々ならぬ勇気を必要とする。温度が千三百度にも達する船内火災に立ち向かい、煙が充満している室内で冷静な行動を行う体験を通して危機管理を身につける。このような貴重な経験を与えてくれるのが海上災害防止センター「第二海堡消防演習場」である。
 平成十年、第二海堡において千百十六人が、実践的消防訓練を受講している。船上での災害に備えることは世界と日本を結ぶ「道」を守ることに通じる。
 



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