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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 中絶・売春・祭り?深刻な問題をそれぞれ抱えて  
コラム名: 自分の顔相手の顔 385  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2000/11/08  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   インドネシアでは、例年二百三十万件と推定されていた中絶数が、去年は三百万件に達したという記事を新聞で読んだ。二百三十万件のうちの六十万件が未婚の女性の望まない妊娠の始末、七十万件が経済的な貧困によって子供が持てないと判断された結果、百万件が流産であった。
 インドネシアの一般の女性が、避妊の方法を知らないのもその一つの理由だが、伝統的考え方にもその原因がある、という。驚くべきことだが、西ジャワでは、娘たちは二十歳までに夫を見つけられないと、それは美しくないか、異性を引きつける魅力がないから、と判断されるのだという。それで多くの娘たちは、男性の気を惹くために婚前交渉を認めてしまう。その結果女性は妊娠し、むしろそれが理由で相手に捨てられるのである。
 インドネシアでは、中絶が法的には認められていないのだが、こういう場合いつも二つの考え方がその解決策として考慮される。それは性的な知識を教えると同時に、宗教や道徳の力を借りて、性のモラルを高めようとする方法である。インドネシア家族計画協会は、文部省に対して、小学校、中学校、高等学校の教科に性教育の時間を入れるように提案して採択されると見ている。
 しかしそんなやり方は現代では楽観的に過ぎる、という見方の方が強い。保健社会福祉省長官のアハマッド・スジュディ氏は、むしろレイプや近親相姦の結果の妊娠に対しては中絶を認める方向の方がいいという。
 新生児の死亡率は十万人に対して三百乃至四百人だが、それは先進国の十倍もの数である。
 「安全とは言い難い中絶が、新生児の死亡率を高くしているのです」
 一方、カンボジアでは、十一月十日から三日間、かつてのクメールの水上帝国の繁栄と、川が与えてくれる豊饒に対する感謝を示す「水祭り」が行われる。その日、通常は百万人の人口のプノンペンに二百万人もの人が集まり、そのハイライトとも言えるトンレ・サップ川で行われる長尺ボートの競漕を見るのである。
 この祭りは最近厄介な問題を含むようになった。首都へやって来る若者たちはばか騒ぎのついでに競漕の行われる川沿いにもある安い売春宿になだれ込み、HIVウイルスを家庭に持ち帰るようになった。既に二十万人が感染しているという。
 首都の北部のスラム街にさえ売春宿があって、非合法にもかかわらずけっこう繁盛している。それは警察の幹部が売春宿の業者から「上納金」を納めさせる代わりに、彼らの闇の営業を認めているからである。
 今までは「水祭り」の間にもこうした売春宿は営業を続けていたが、プノンペン市長は今年は店に営業停止を命じ、その代わり警察官に五万個のコンドームを持たせて店の前に立たせる計画を立てた。どの国もそれぞれに深刻な問題を抱えているのである。
 



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