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著者: 山田 吉彦  
記事タイトル: 働きやすい環境づくりを柱に  
コラム名: 日本の生命線を守る 最終回  
出版物名: 海上の友  
出版社名: (財)日本海事広報協会  
発行日: 2000/04/21  
※この記事は、著者と日本海事広報協会の許諾を得て転載したものです。
日本海事広報協会に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど日本海事広報協会の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   「日本商船隊は、外国人により支えられていると言っても過言ではない」
 日本の船会社が支配する外航商船に乗り組んでいる船員の九〇%は外国人である。日本財団が国内の船会社を対象にアンケート形式で外航商船の船員実態調査を実施、得たデータである。
 このアンケートでは、日本の船会社が支配する千百八十三隻分の船員のデータが集計された。国別の船員数で一番多いのはフィリピンで、約六八%にものぼっている。船の指揮官である船長さえ約五七%が外国人である。
 外国人のうち、最も多いのはフィリピン人で二一%、次いで韓国人の二八%。実に二十七カ国におよぶ外国人船長が、日本の外航商船を操船している。
 日本商船隊に外国人船員が多く乗船していることは聞いていたが、具体的な数字を示され、あらためて外国人への依存度の高さに驚いた。
 大手船会社では、フィリピンにおいて船員教育機関を設けるなどの外国人船員教育を実施しでいるが、今回のアンケートに答えた船会社の中で、外国人船員に対する教育を行っているのは約三割の会社のみであった。
 また、STCW条約の規程にある船員の教育・訓練・資格付与の基準を満たしていない国の船員を雇用している船会社もある。
 日本人船員に関して解決しなければならない問題も多い。現在乗船している日本人船員の高齢化と若年船員の経験機会の不足、賃金の高水準定着である一次代を背負う日本人船員に機会を与え、育てていかなければいけないが、賃金との見合いがとれず、船会社はジレンマに陥っている。
 日本商船隊のうち、外国に船籍を置く、便宜置籍船の割合も高くなっているのも、ご存知のとおりで、その比率も九〇%を超えている。
 今回の外航商船の船員調査により、日本の海上輸送が外国人・外国籍船に依存している実態が把握されてきた。此の資料を参考に、日本の生命線ともいえる海上輸送の安全確保と海運業界の活性化のための方策を幅広く検討する必要がある。
 今年三月から日本人船長・機関長二名体制による国際船舶が可能になり、運航が始まった。
 この制度においては、日本人船長・機関長の管理能力がますます重要となってくる。また、船会社における運航管理者も重要な役割を受け持ち、高い管理能力が求められる。運航管理教育の充実も今後の課題である。
 アジアの海がいつまでも平穏であるとは限らない。南沙諸島、尖閣諸島などいくつかの地域で現在も海上紛争が起こりかねない状況にある。
 有事の際も安定して日本に物資を輸送することができる準備は怠ってはいけない。シンジケートによる海賊被害への対策も然りである。
 また、バラスト水に混入する微生物による海上汚染や、油流出事故対策など環境問題への対応など船舶航行における管理項目は、より複雑になっている。
 海運業界における厳しい国際競争の中、海上交通の安全を守るための最善の船員対策を官民一体となり、早い時期に研究していかなければならない。
 地域としての日本の生命線「マラッカ海峡」から、日本への物資の搬入のほとんどをまかない、日本人の暮らしを支えている日本の生命線「海上交通」について書き続けてきたが、日本の生命線を支えているのは、海上安全のために船社・行政・各海事関係団体・海事教育機関などで働く人々である。
 日本財団では、日本の生命線を守る人々が働きやすい環境をつくり、事業をお手伝いして行くことを財団運営の重要な柱として今後も努めて行きたい。
 



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