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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: ハベル・チェコ大統領 1)  
コラム名: 地球巷談 43  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 1997/10/26  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  余暇は観劇や絵画鑑賞に
 九月、中欧の古都プラハで開催された「フォーラム2000:新たな千年世紀への希望」とのタイトルのついた国際シンポジウムに出席、主催者のハベル大統領と一年ぶりに旧交を温めました。
 ビロード革命という言葉があります。一九八○年代の終わり、中欧、東欧の旧ソ連圏では民主化を求めての反共産政権運動が高まり、次々とワルシャワ条約機構加盟国が崩壊しました。こうしたなか、チェコでの民主政権誕生は、流血を見ることなくビロードのように滑らかに十日間という短期間に完了しました。このビロード革命を反共産各派の集まりである「市民フォーラム」のトップとして実現したのがハベル大統領です。この「市民フォーラム」には、亡くなったオルガ夫人と弟のイワンさんも幹部として参加していました。
 昨年暮れ、肺の手術を受けたハベルさんですが、声が少し小さくなり、いささか肥満気味になったものの色つや良く元気そうでした。ハベルさんは今年六十一歳。「少し体重コントロールをされては」と話すと「手術後、たばこをやめたので太ってしまった」と苦笑いしていました。
 ご存じの方も多いと思いますが、もともとハベルさんは政治家ではありません。国際的に名の知られた劇作家であり文芸評論家です。とはいえ、六八年、ワルシャワ条約機構の戦車に蹂躙された「プラハの春」事件の際は、非共産党作家の集まりである「独立作家の会」の会長として民主化運動に参加、文化人の立場から常に民主化運動の先頭に立ってきた人です。しかも、反政府運動がたたり、作家活動を禁止され、合わせて五年近くも入獄を余儀なくされています。日本財団とは大統領就任以来のお付き合いですが、小柄で常に微笑を絶やさない人柄からは、筋金入りの政治運動家の面影を見いだすことはできません。
 チェコの大統領任期は五年。しかしチェコとスロバキアが連邦を廃止、おのおの独立する前からの大統領であり、すでに在職七年を超えます。来年初めには大統領選挙がありますが、対抗馬がなく再選は間違いありません。私が「いましばらくはペンをとる暇がないでしょうが、頑張ってください」と話すと、一瞬顔を曇らせ「個人の時間がないのがつらい。余暇はできる限り、観劇、絵画鑑賞に充てている」と戯曲や評論を執筆する時間のない文人政治家の悩みをのぞかせていました。
 ハベルさんとお会いするたびに感じるのは、二十一世紀には日本でも国際的に通用する、歴史を語り自前の文化文明論を論じ得る政治家を育てることの必要性です。
 



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