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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 子供の数?「12子から100万円」は放言でも  
コラム名: 自分の顔相手の顔 40  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 1997/04/08  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   ほんとうに世の中というものはうまくいかないもので、片方でアフリカでは人口が増え過ぎて困るといい、日本では子供が生まれなくなって将来は暗澹としたものだ、と言う。
 私の周囲には過激というか、無責任というか「大きな声で人前で言わないでよ」というようなことばかり言う人たちが集まっているが、最近一人の男性がしつこく言うのは、結婚しないで、子供も生まない男や女からは、子なし税というのを取るべきだ、という説である。
 もっともこういうことを言うのは、決まってかなりお酒が入っている時だから、私もいい加減に聞いている。彼の説によれば、自分たちは子供を生まないで、結局は年を取って死ぬ前には誰か若い世代の世話になるのだから、自分の子供にいささかでもそれを肩代わりさせられないようなヤツからは税金を取れ、という過激な意見である。その後で「もういっぱい水割り」ということになるのだ。
 でも笑い話ではない。私はもうすぐ死んでしまうのだからどうでもいいような話だけれど、四人に一人が高齢者になったら、日本は沈滞する。面倒をみたくたって人手がなければ、放置される老人も出て当然である。
 私が勤めている日本財団では、今しんけんに、職員の子供の数が増えるに従って、家族手当ても増額することを検討している。社会の動きがこうなるといい、と言いながら、個人や組織が何もしないというのは間違いなのだから、第二子は幾ら、第三子なら幾ら、と現実的に額を算定してみるように、と今言っているところである。
 そもそもこの話が現実化したのは、財団の理事の一人が、職員の結婚式に出席して、上等のお酒ですっかりいい気分になり、「当財団は、第十二子からは、一人当たり月百万円ずつ払います」などと放言したのがきっかけである。何で十二子からなのか??多分一ダース完成祝い、という程度の発想だろう。しかし酔っぱらっていても国を憂える心の片鱗が見えるところが気持ちいい。
 大切なのは、個人の平凡な生活を守るには、私たちが国家に属し、その国家が穏やかで健全であるということだ。無政府主義者の甘いところは、現実の問題として、政府やそれに代る組織なしに、個人生活が守れると思うことである。
 そのためには、国民の数が減らないように、増えすぎないように、市民一人一人がコントロールする義務を請け負うことしかないだろう。
 各企業も個人も、今かなり本気でこの問題を考えなければならない。お金だけではない。子育てを楽しむ心や、物質と精神を調和させる技術など、すべてにおいて成熟した若い世代の増えることしか解決の方法はない。
 若い職員の一人は「子供ができるような時間に帰してください」などと、我々にも聞こえるように言って笑っている。
 



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