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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 公共の場所?大声や警告は相手を子供扱い  
コラム名: 自分の顔相手の顔 420  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/03/28  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   日本の公共の場所はほんとうに煩い、と思うことがある。
 「エー、いらっしゃい、いらっしゃい」
 と売り子が声を立てるのは、どちらかというと品のない商いの方法で、上品を売りもののデパートでは声を立てるということは普通しないものとなっている。
 しかし日本では羽田空港でも、怒鳴り声がするのだ。
 「××便で、〇〇にお越しの方はいらっしゃいませんか!」
 と航空会社のお嬢さんが叫んでいる。乗り遅れる人がないようにという親切と、積み残しが出ると出発が遅れて困る、というのと、両方なのだろう。
 新幹線の駅にいれば、突然「ピピピ」と警告の笛が鳴る。入って来る新幹線を写真に撮ろうとしている外国人の旅行者に対して、その位置が前過ぎて危ないと駅員さんが警告しているのである。先日線路に落ちた人を助けようとして二人が犠牲になって以来、こういう注意はもっと厳しくなったような気がする。
 つまりこの大声や警告は、相手を幼児扱いしているのである。大人なら自分で危険を判断する。外国の駅でこういう警告音を聞いたことがないのは、入って来る列車が危険だということは大人なら分かるのが当たり前なのでいちいち注意はしない、ということなのだろう。
 アフリカの人は声が大きい。静かな村や砂漠に住む人でも声が大きい。その理由なるものをいつか説明されたことがある。秘密を作らないために、話は大きい声でしなければならない村の掟なのだ、という。そう説明してくれたのは、学芸員のような人だったのだが、私は今でもほんとかな、と疑ってはいる。外国人をちょっと騙すというのはおもしろいものだから、私はからかわれたのかもしれない。
 しかしとにかく日本人は、常に正直で、ユーモアがなくて、真剣で、親切で、従っておせっかいやきなのである。生命を的に、いいアングルから新幹線の写真を撮ろうという人には、間一髪の危険も放置する他はない、とは思わないのだ。
 それが裏目の反対の「表目」に出ることもあるかもしれないが、公共の場所で、たくさんの人が喚いたり叫んだりしているのは、どうしても子供臭い感じがする。声も警笛もない静かさは、個人の責任負担の度合いを表しているのかもしれない。
 



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