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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 不信の理由?党を挙げて変節…故に  
コラム名: 自分の顔相手の顔 60  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 1997/06/24  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   私は政治の仕組みがよくわからないので、時々友達にたしなめられる。たとえば、「もう政治家なんて信用できないから、今後一切投票しない。投票拒否という形で闘う」などとカッコいいことを言ったつもりになっていると、「投票しなかった人には、一切の権利がないんだということを知らないね」と言われるのである。
 私の最近の政治不信の最大原因は、相手が変節するからなのである。昔、嘘をつく政治家は個人的に悪い人だった。今は党を挙げてサギをカラスと言いくるめるのに近い詐欺をするのだから、こちらがまじめに考えて投票することはないと思うのである。
 私は人間との付き合いには、かなり幅が広い方だと思う。自分と似ていなくても……むしろ似ていないからおもしろい、と思うことがよくある。恋や情事に熱心だろうと、アル中の芸術家だろうと、金儲けの話をし出すとやめられない人だろうと、宗教の違う人だろうと、誰でも顔の見える人、思想のはっきりしている人が私と付き合ってくださるというのならありがたいことなのである。
 もっとも付き合いたくない人というのも少数ながらいる。証拠も接触点もないのに、他人が「ああ言った」「こう思っているはずだ」と推測でものを書く人は危険だから、近寄らないようにしている。
 しかし政治家不信の理由はもっとはっきりしている。自民党という保守に入れたのに、いつのまにか社会党政権になっていた時に、私は自民党が変節したことを知った。変節漢とも、私は危険だから付き合いたくない。
 旧社会党に至っては、これほどの大量殺人を世界中で許した社会主義を信奉した、という点で、党員はもっとも政治的に目がない人々であった。最近の流行は「社会主義が間違っていたのではない。その運用を間違った国があったのだ」という言い訳になった。しかしこの弁明がこっけいなのは、運用を間違えなかった国が地球上に一つもなかったことである。
 しかも彼らの言う「運用を間違った国」に対して、その時々の社会党員は、それなりに反対や抵抗を示したかと言うと、そんなことは何もしなかった。そのあげくにごまかすとしか思えないやり方で党名を変えたり、権力ほしさに不倶戴天の対立思想である自民と結んだ。汚い、汚い、という感じである。
 自民も自民である。数のためには社会主義と結んで肉体だけでなく、魂も売った。こういう場合、組織でも人でも、肉体は死ななくても、精神において死んだのである。
 今の議員が一斉にやめて、全員新人ということにでもなったら、また投票する気になるだろうか、と考えたが、多分それもだめだろうと思う。政治の病原菌はあまりにも広範囲な病巣に巣くっていて、もはや根絶の方法はなさそうに見えるから、今のところ私は棄権以外に私の気持ちを表す方法を知らない。
 



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