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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 曽野綾子さんに聞く  
コラム名: この人に会いたい 第1回  
出版物名: 司法書士  
出版社名: 日本司法書士会連合会  
発行日: 2000/07/10  
※この記事は、著者と日本司法書士会連合会の許諾を得て転載したものです。
日本司法書士会連合会に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど日本司法書士会連合会の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   人は何のために生まれてくるのだろう。腹を満たすためか、それとも人を愛するためか。人にはそれぞれ生まれながらに与えられた使命があるのではないか??。
 東京・田園調布の曾野邸を訪ねた。作家として世界的に善名なだけでなく、日本財団の会長として辣腕をふるう曾野綾子さん。旧来の常識や日本的慣習にとらわれないものごとの考え方に胸のすくような思いをする読者やファンがたくさんいる。
 司法制度改革審議会の委員をはじめ、多くの役職をこなし与えられた栄誉は限りない。曾野さんは、いつどこでも飾らず真剣に物事に取り組んでいる。その使命感の原動力を知りたくて、重い木の扉を叩いた。
インタビュアー 金子 良夫
 
ボランティア活動の原点
??『神さまそれをお望みですか』(一九九六年)を読ませていただきました。この中で曾野さんがなさっているNGO活動についてお話しいただけますか。
曾野 始めてからもう二八年になります。韓国の聖ラザロ村という施設の李庚宰神父さまがハンセン病の施設を運営していました。とても貧しく食堂もない状態であることを伺い、日本からハンセン病の医師を派遣することから初めました。
 それと、マダガスカル取材の際に、日本人のシスター遠藤にお会いしたことです。修道院が産院を運営していて、貧しい母親たちが未熟児を産みに来ますが、すぐ栄養失調になってしまう。その話を聞いて、アフリカにも寄付を送るようになり、同世代の女性六人と男性の公認会計士一人でスタートしたのが現在まで続いているんです。
 この活動は最初から企業の寄付をあてにしていません。個人の気持ちをいただく姿勢だからこそ、今に至るまでこの活動が続きました。妻の命日に送りますとか、子供さんがガンだと思っていたら違った、こんなに幸せなことはないからと。一つひとつがそういう思いの込められた大切なお金です。
 もう一つ続いた理由は、寄付金から一円もランニングコストを引いていないから。銀行の送金料と年末の預金の残高証明くらいで、必要経費を全然落としていないんです。
 会合で食事する必要があれば、うちでおにぎりとプタ汁を食べる、手紙を出すときは出す人が切手を貼って出す。電話代も同じ。ですから、寄付金の全部はアフリカに行くということを確信していただけるのです。会計は仲間の公認会計士がいてきちっと見ていますけれど、もちろん無報酬です。
 そういう意味で私はNPO(民間非営利団体)っていうのは難しいと思います。私たちはNGO(非政府組織)だから続いています。つまり援助に携わる人にプロフィット(報酬)があってはいけない。これに関わると、精神的にはすごく「いただく」んです。しかし、物質的・時間的・労力的には全部損をする、ということにしておかなければ堕落していきます。それを承知の方だけが参加するということが大事です。
 私たちのグループは本当に恥ずかしいことですけれど、金銭の援助を日本人修道女にしているだけです。なぜ修道女を選んだかというと、お金に全く漏れがないからです。日本人の修道女というのは爪に火をともすようにしてお金を遣います。その意味で修道女に寄付しているのは、私どもの成功のもとでした。
 
出したお金の使い道を確かめる
 私は寄付金を出した所を後で必ず見に行っています。監査に入らないと駄目なのです。正式には「海外邦人宣教者活動援助後援会(略称・ジョーマス)」といいますが、この活動をやり続けているのと同じ手法で日本財団も運営しています。
 ボランティア活動での一番の大きな収穫は、私が日本人に対して尊敬を持てたということです。最大の感謝と幸福を得ました。やはり日本人には温かい気持ちがあるんだと実感でさたのが最高の幸せなんです。もし見返りかあるとすれば、お金に添えた手紙を読めるというのが最高の利得ですかね。個人の方から手紙をたくさんいただきます。
 
日本財団でのお仕事
??日本財団は組織が大きいですよね? 小さなNGOグループと同じように運営できるものですか。
曾野 大変なんですけれど、やろうとしているわけです。私は、すべて財団が関わったところへ立ち寄っていきます。例えばインドのデカン高原にも行きました。六時間くらい車に揺られるような奥地です。ティモールでは私は修道院の床に寝ていました。
??ただでさえお仕事が多いのに、日本財団の会長をお引き受けなさった勇気と、その後の行動力が素晴らしい。
曾野 私はマスコミに関わっていた人間なので、情報公開がどういうことか知っておりました。それまで日本財団ではマスコミを避けるようにしてたらしいんですけど、私はどんな仕事にでも失敗はあるという考え方なんですね。だからマスコミより早く、一分でも先に告白するように指示しています。
??ありとあらゆるものを公開する。
曾野 日本財団には何も秘密がないんですよ。でも会長をお引き受けするとき、笹川陽平理事長に、「私、けっこう隠し事も好きなのです」って言ったんですが、小説家ですから(でもね、ただ隠し事が好きなだけじゃ小説にはならない。なんでこの人が、この隠し事をするのかってところが小説なのです)。そうしたら、笹川陽平さんが、そういうことはよくありませんから、一切の許可なく何をお書きになっても結構ですっておっしゃった。
 日本財団には、日本国民の税金は一円も入っていないのです。人様からいただいたお金は何であろうと人様のお金。一円だって大事ですね。ですから、できるだけ経費は切り詰めて、老人ホームを作るとか入浴車を買うとか、そういうことにまわさないといけない。
 私はまず何をやったかといいますと広告費を一億円くらい切り捨てました。番組のスポンサーをひとつやめるだけで八億円。八億円あったら老人ホームがひとつ建つの。
??雑誌や新聞の広告は逆に増えたような気がするのですが。
曾野 そう、それが私たちの戦い。最初、財団に行ったとき、B5判の広報誌を発行してました。経費は二億何千万円かです。誰にあげるんですかって聞いたら、関係省庁や団体、有識者に送っていると。そんなもの誰も読んでませんってすぐやめさせました。浮いた二億円あまりで週刊誌の縦三分の一の広告枠を五〇数誌に買いました。雑誌広告は発行部数とページ数を換算して一円台以上となると出していません。それくらい厳しくやっています。隅々まで見ています。みんな人様のお金ですから、使い道を知っていたたかなければならないし、ある程度、広報活動は必要でしょうけど……。
 
お坊ちゃまとお嬢ちゃまたちのための修学旅行
??日本財団では毎年、若い官僚やマスコミの皆さんを連れて世界最低の貧困を見に行かれていますね。
曾野 そう、おもしろいでしょう? 「官官接待・官民接待大反対!」という最中に始めました。公務員の方は奢られたりたかったりしてはいけないことになったのですよね。
 ですから止めてもいいのですけどね、そんなことしたら人間の心がすくんでしまう。大反対の中で公然と始めたんです。
 日本財団は良き日本を作るためにあるんです。入浴車を買うことにもお金を出しますけど、同時に良き官僚と良きジャーナリストを作らなければならない。今の若者の不幸は貧困の実態を知らないこと。それを知らなくては本当の人間にならないでしょう。
 アフリカの奥地に行きます。でも普通は奥に入っていくルートがない。私はシスターたちを維持しているから、そんな最奥地へのルートもみんな知っている。
 ふつう接待というのは、相手の生活を良くすることでしょ。グリーン車に乗る、フランス料理食べさせてゴルフをさせる。ところが逆なんです。どこまで行ってもエコノミーで、国によってはホテルもない。修道院に行ったら、床の上に寝かせます。病気も危険も全部ついてきますね。マラリア、コレラ、エイズもエボラ出血熟も。それでよろしければ来てくださいと。
 それなのに今、申込みがすごく多いんです。厚生省の方々には「これだけひどい病気なんて日本にいたら見られないでしょう」と恩にきせます(笑)
??曾野さんもご一緒されるんですか。
曾野 もちろん、ずっと一緒に。ですけど、マラリアの薬は日本で売っていません。事前に飲ませることができない。例えばチューリッヒに着くと、そこで買って、あとは本人の選択に任せます。この薬の副作用と、マラリアにかからないようにご自分で予防なさるかどちらかをお選びください、と。誰も人間の運命に対しては完全ということは言えません。そこで皆さんいろいろお考えになるんです。チャーター機も出しています。落ちるかもしれませんけどね。本当はチャーター機の方が地上の事故より率が低いんです。
 アフリカでは地上を100キロ行くと、一回は死ぬかと思う目に遭う。チャーター機の方が私の感覚では安全なのです。しかし、それでも保証はできませんからね。
??人生観が変わった方もおられるでしょう。
曾野 皆さん、変わるとおっしゃる。とにかく、また行きたくなる。魂をゆすぶられるような思いをする。添乗員がつきませんから、日本を出たところから生活が始まるんですよ。荷物を車に積むのはポーター任せではいけません。最後まで積んだかどうか。積んでもなお見張ります。かっぱらうのがいますから、皆が分担して危険負担をします。
??連れていくのは官僚や新聞社の方など旨さんエリートですものね。
曾野 厚生省のドクターが、じゃがいもをむいていたんですよ。やはり手術みたいに丁寧なの。酒のみの新聞記者のおじさんが、「ドクターいいんだよ、丁寧にむかなくったって。癌だって適当に切っときゃいいんだよ」って。そういう会話ってちょっといいですよね? 誰も癌は適当に切っていいとは思わないけれど、そこである種の表現とか展開っていうものを発見します。あとでお二人が何かあったら直に電話をかけられるくらい本当に仲良くなってね。その友情を狙っているんです。
 
ボランティアの原動力
??曾野さんのボランティア精神や小説を書く原動力はどこにあるんでしょう。信仰も原動力の一つではあるのでしようか。
曾野 いえ、そうでもないです。ただ聖書的な見方ってありますね。人間は努カして、神様にしたいことの届けを出しておく。それが叶えらるかどうかってことは全くわからない。だけど、届けを出さなかったのに神様がこれをやれと言うこともある。
 私のジョーマスの活動なんて、まったくそうで、聖ラザロ村以上に広めるというときに、うちの主人も親友も反対しました。それは愛情からです。でも私は、お金がなくなればやめればいい。何がなんでも今年は1000万円集めようとかは無理です。神様が必要なだけ、おまえたちが使えるというだけ与えてくださるだろう、今年は500万。来年は800万とかね。それでなぜいけないのか。むしろ私たちの義務はお金を正しく使うことです。
 この前インドに行ったら、私たちが送った保育器で昨年六五人が生きのびましたって言われたんですね。その中の、たぶん一割の未熟児は保育器がなくても生きるでしょう。七、八割は保育器がないと危なかったかもしれない。その保育器がいくらしたか正確には覚えていませんが、30万円でも40万円でも、出してくださった方が知らないところで50人の命を助けているのです。そのことを2000人くらいの人に報告しています。
??日本財団からですか?
曾野 いえ、私どものグループ、ジョーマスから。私どもはどこの財団からも一円の寄付もいただいていません。私たちは何千人、何百人から寄付を受けます。その人たちに報告しなければいけないわけです。
 日本財団では、新聞記者に失敗談ばかりしていますよ。どうやってお金を取り返したかとかね。私が着任してから、三例くらい怪しいことがありました。全部お金は取り戻しましたけどね。
 あまり言いたくないですが、小切手の記載間違いもあったんです。日本人って正直でしょう。その場で間違いを指摘していただいて実害は何もないんです。でもうちは罰金をとったのです。私からも。でも私、減給はできないです、無給ですから。笹川陽平さんも無給です。
 ただ、罰金というと法的なことになるんですってね。つまり履歴書に残る。だから私は「自戒金」とか適当な名前をつけて(笑)。私は20万払ったんです。笹川陽平さんが15万。やはりうちはお金を預かっていますから、それぐらいしないとね。
??当連合会でも昨年、社団法人を立ち上げました。成年後見センター・リーガルサポートという名称ですが、主に高齢者などの財産管理を中心に行っています。
曾野 成年後見制度ですよね。それはいいことをなさいました。そういう組織がどんどん増えてくればよろしいのね。
 
あなたに与えられた「使命」とは??多く与えることの幸せ
??最後に、人には職業的な使命もあるけれど、もうひとつの使命というのかあると思うのですが。
曾野 神様は普通どこにでもいらっしやるんです。道でも貧民窟でも、富んだ家にはいないって言いますけれど、富んだ人々にもたぶん、苦労があるから、どこにでもいらっしやる。そういう運命を私は面白がるんです。……面白がるっていうと慎みに欠けますけれど。私はあまり慎むっていう態度が好きでないもので、神様が何ておっしゃるかを楽しませていただいて、ふっとしょうがないんだな、こうするほかないんだなっていうふうに流されるのが好きなんです。
 流されるって言っても、例えばあなたの場合でしたら、与えられた司法書士としての能力というのがなければお尽くしできないわけですね。私にも表現力はあります。持てるもので何でもいい、奉仕できるような才能がない人は一人もいないのです。それを皆が持ち寄ればいいと私は思っております。
 受けることばかりですと、「要求することが市民の権利」だなんて、はき違えます。でも本当は多く与えることのできる人が幸せなんです。私は多くいただいて、多く差し上げさせていただくのが幸福なんです。人にいつもお菓子ばかりあげているとつまらないじゃないですか。時にはもらった方がいいですしね。両方があるのが幸せだと思っています。
??本日は、長時間にわたりどうもありがとうございました。
 



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