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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 奇妙な人たち?代価払ってこその自由  
コラム名: 自分の顔相手の顔 26  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 1997/02/18  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   私は小説家でもあり、今は財団の仕事もしているので、時々国の内外で、いろいろな調査をすることがある。その時、土地に住んで仕事をしている日本人の話を聞きたいと思うことがあるが、時々奇妙な人たちの存在を感じることがある。
 感じる、という言い方をする他はないのは、その人に会えないからである。もちろん忙しい人たちだということを、私はよく知っている。一作家や一財団の職員の仕事のために、自分の大切な時間を割けない、と思っても当然だ。だから、決してご無理にではなく、もしお時間を頂ければと伝えてください、と私はいつも言うことにしている。
 しかし会わない「理由」は多忙でもなく、私という人間がキライというわけでもないらしい。話に行ってもいいけれど上司か会社の了解を取ってくれ、と言うのだという。人を集めるのに力を貸してくれている人が、
 「そういうわけなんですけど、ソノさん、どうしましょう。オフィスを通しますか」と聞く。そんな時こそ、私の根性の悪さは剥き出しになる。
 「ケッコウです。そういう人は来てくれても、あたり障りのないことしか言わないでしょう。おいでいただかない方がいいです」
 私は何も他人や組織の秘密を教えてくれ、などと言っているのではないのである。私の個人的な作家の仕事は別として、財団の仕事は、日本人の大切なお金を人道的な有効な仕事に使うのだから、外国の場合なら、相手国を少しでも理解してから、必要な所に洩れることがないような用心をして配分しなければならない。だからその国の商習慣とか、お金に対する態度とか、病気の直し方とか、公表してもかまわない範囲の失敗談とかを聞かせてください、とお願いしているだけなのである。
 こういう男たちは、しかしかなり多い。それも大きな組織や会社の中で、威張っていられる人ほど多い。
 何という勇気のない人たちなのだろう。私なら、その会社や組織に忠実を誓って一生懸命働くだろうが、自分の個人的な判断や、才能や、知識まで、管理させようなどとはさらさら考えない。会社のヒミツは厳重に守るが、他の私の知識は、私が自由に使う。
 同じスローガンを書いたたすきや鉢巻きをしてデモとかストとかに参加している人を見ると、どうしてあんな個性のないことができるのだろう、と不思議に思うことは前々からである。鉢巻きをして「ガンバロウ!」などと拳を突き出すことを要求される現場に居合わせたら、私一人は何もしないで抵抗する。しかし、自分の言葉でスローガンを書き、自分の服でデモに参加する人は好きだ。
 身の危険を感じない範囲で、自分の意見を述べるいささかの勇気もない人に、ほんとうは自由を要求する資格などない。すべてのものは、代価を払って受ける。自由もただではない。
 



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