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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 成人式とその後?恐ろしい基本的なけじめのなさ  
コラム名: 自分の顔相手の顔 406  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/01/31  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   成人式で暴れる若者たちに対する社会の批判がはっきり表に出てほんとうによかった。私の知人のジイさんは最近「若者」と書いてバカモノと発音しているらしいが、こういうことになると、他の良識ある若者が迷惑する。
 彼らを告発することはいけないという「良識派」の大人がいたが、私は新成人の中に人間としての基本的な態度のけじめがないのをやっとただす時が来たと思っている。
 つまりこの成人式は、必らず出席しなければならないものではなかった。イヤなら出なければいいのである。そうすれば、テレビに映っていたあの芸能人の舞台衣裳のような羽織袴の費用も浮く。私ならセーターにヤッケを着て好きな人と一日河原を歩くだろうと思う。
 成人式に行ったということは、心のどこかでその式の存在を承認したか、初めから破壊する目的で行ったということだ。後者なら、他人の好みを意図的に侵害したという点でかなり悪い。
 こうした無法バカモノが、高知の橋本大二郎知事を訪ねて、謝ったという記事を見てもう一度白けた気分になった。
 彼らは「こんな大騒ぎになるとは思わなかった」「来賓のあいさつは『おめでとう』だけでいい」と注文をつけたらしい。まだ成人式に、自分の好みを通すことが可能であると考えているのである。
 彼らは恐らく民主主義をではなく、専制的な形態が好きなのである。その会場には、いろいろな考え方の人がいるということを認識できないのである。
 私たち日本人の多くは、公式会場での挨拶は短い方がいいと考えている。しかし人間は呆けるとまず挨拶が長くなる。国民性もある。私の知る限りだが、インド人の挨拶や演説の長さは、世界的に知られる恐怖の的だ。
 こうしたものに常に耐えねばならない職業もある。政治家、外交官、国際会議に出る組織の代表者などである。私のような身勝手なものは何とかしてそれから逃れようとする。その場合は先に上げたような職業や立場にだけはならないようにする。一般的に言えば、義務を怠ることにならない限り、そのような席に「できるだけ」出席しない算段をする。それが、二十歳以後の、大人の本能と才覚というものだ。
 自分とは違う好みの人がいるのが集会の原則である。だから自分の好みを押し通そうとしてはいけない。それは専制君主の発想である。
 橋本知事はこうした若者たちと二時間近く話したという。紅茶を出し記念写真を撮った。知事はまことに教育的であった。しかし、これは彼らの特権となった。
 他の若者たちの中にも来賓の挨拶の長さにうんざりしていた人たちがいたろう。しかし彼らは忍耐や優しさを知っていた。そのような新成人たちは知事と懇談もできなかったし、記念写真も撮れなかったのだ。
 甘えるな、背負うな、というのが私の感想である。
 



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