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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 狡い政治家?投票率、50%割る日を見たい  
コラム名: 自分の顔相手の顔 96  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 1997/11/11  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   私は自民党が、旧社会党である社民党と勝手に結んで与党を作って以来、すっかり投票に嫌気がさしてしまった。旧社会党が社会主義を信じていたのかどうかは知らないのだが、とにかく徹底して社会主義の国と「仲良し」だったことは間違いない。朝鮮半島では、韓国のソウルは全く無視して友好を考えず、北朝鮮のピョンヤンとだけ親しく行き来していた。それなのに北朝鮮の経済の遅れも思想の弾圧も批判することなく、日系の妻たちを人道的に里帰りさせてくれ、という働きかけもしなかった。
 旧社会党の浅沼稲次郎は「米帝国主義は日中共同の敵」と言ったと記憶するが、帝国主義の度合いは、中国の方が凄まじい。未だに選挙もない一党独裁だし、アメリカの大統領は絶えず足元を掬うような民衆の目にさらされているが、中国の為政者の地盤は、昔から伝統的に民衆の批判の外にあるのだから、実に強固である。
 旧社会党が正しいことをして来たのなら、何も名前を変えることはない。昔の名前で出ている女は、どこかいい女だ。何度男に騙されても、真心でやって来た人生は、誰からも愛される。彼女の昔の名前を覚えていた男たちは、それでまた彼女に会いに来る。しかし名前を変えるのは犯罪者の常套手段である。
 旧社会党、今の社民党は、ベルリンの壁崩壊までの、人民の不幸と弾圧に手を貸して来た人たちだ。そして消費税三%反対をあれほど叫びながら、五%の今は黙っている人たちだ。人間としての節度、時代と真実を見抜く眼力、などのない政治家に指導的立場を取られるのは困る、と私は思う。
 自民党は、自分が勢力を保持するために、こういう人たちとも平気で手を組んだ。政治の世界では変節は当たり前だ、とフランスの大物政治家が言うのを聞いたことがあるから、どこの国でも政治家は勢力保持のためには、何をしても平気な人たちなのだろう。
 さらにもっと狡い政治家たちが現れた。
 宮城の知事選に無所属の候補が勝って以来、すぐさま参院選を無所属で出馬することに切り換えた人である。そういう人たちは、今まであちこちの党に「出入り」を繰り返していたはずで、早速この有利な流行に乗ったのだろう。見え透いた軽薄さである。
 こういう事態になると、公約を守りますどころか、一旦当選すれば、反対側に寝返ったり、あの人にだけは国政を任せたくないという人を平気で抱き込んだりするのだから、油断がならない。
 棄権したら政治に対する責任を放棄したことだと言われるが、私はこういう事態で投票しろという方が無理だと思っているから、当分棄権を続ける。むしろ投票率が五〇%を割る日を見たい。半数以下の投票しかなければ、選挙も無効とするのが民主主義の原則だろう。その場合すべての既存の議員は、全員辞職するのが筋である。
 



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