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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 「君が代」?カラオケで歌われるらしいが  
コラム名: 自分の顔相手の顔 423  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/04/10  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   或る新聞社から、最近しきりにカラオケで「君が代」が歌われていることについて、コメントするように求められて来た。私は本職が書くことなので、コメントの字数を五十八字とか七十四字とか言ってくださればその通りにご返事を書きます、と言ったのだが、やはり談話でなければいけなかったようでそのままになったが、私はカラオケで歌われる歌が何であろうと少しも気にしない。
 私の知人で、演歌を聞いても少しも心を動かされることがない、と言う人は数人いる。しかし反対に演歌や民謡でないと、魂を揺さぶられないという人もたくさんいるのだ。私はカラオケを歌わず(正確に言うと歌を歌えないのだが)、カラオケに行くのも好きではないけれど、あれはすばらしい場所だと思っている。何しろ音楽が好きな人だけが集まるのだから、音楽が嫌いな人や才能がない人には全く影響を及ぼさなくて済むのである。

 さて「君が代」だが、人は他人に影響を及ぼさないのなら、どこでも何でも歌う自由がある。そのうちにカラオケで「君が代」を歌いたい人と聞くのは腹が立つという人とが掴み合いの喧嘩をするかもしれないが、歌う人が多いということは、単純に言ってそれほど「ご希望」と「需要」があったのに、今まで学校が歌わせなかったということだろう。

 たかが歌一つに、どうしてそんなに重々しい意味を持たせるのだろう。私は三十年以上三浦半島の遠洋漁業の港町で週末を過ごしているが、十三カ月くらいラスパルマスやメキシコ沖までマグロを採りに行って帰って来ない母船の出港の時には、必ず軍艦マーチを流した時代があった。今はマグロ漁が下火なのか、そんな派手な出港風景は見られなくなったが、それはつまり軍艦マーチは名曲で、その代わりがない、というだけのことである。軍艦マーチは一時はパチンコ屋でもやっていたと思うが、別にあの曲を許容している人がすべて軍国主義者だということはないだろう。

 しかし密かにカラオケ・ルームで歌うのでない限り、国歌を歌う時には必ず起立し、姿勢を正し、演奏が始まる前には静粛を守る、というのが、世界共通の礼儀であり常識だ、というくらいのことは、親たちと学校が教えるべきだろう。一部の非常識な教師が教えないのなら、親が教師と対抗し、彼らと闘いながら教える他はない。学校や教師を信じるな、最大の教育責任を担っているのは親なのだから、と私はいつでも思っている。
 



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