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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 給食指導?体で理解させるのは悪くない  
コラム名: 自分の顔相手の顔 437  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/05/30  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   五月十九日付けの毎日新聞夕刊に、佐賀県鹿島市の市立中学校で起きた小さな事件の話が出ていた。

 一人の男性教諭が、ある日、休んだ担任の代わりに、給食指導に行った。すると先生の机の上には、パンと牛乳はおいてあったが、シチューなどの副食はなかった。

 当番の生徒が「担任が休みだったから」と言い訳すると、「代わりの先生が来るだろう」と注意し、罰として給食の中止と廃棄を命じた。

 毎日新聞の米田和俊記者は、冷静に私情を交えずいい記事を書いている。

 「この後、この教諭は『世界には今夜食べることを心配している人が3分の1もいる。また、家庭ではだれから先にご飯をつぐだろうか』などと話したという。

 校長は『年長者への礼儀などを理解させようと思うあまり、行き過ぎがあった』と話している」

 今まで何か事件がある度に、テレビや新聞にまっとうで気骨のある発言をした校長を、私は一人も見たことがない。今度も社会の風潮に迎合して実につまらない反省を見せた。しかしもっと困るのは、東京のテレビ朝日の朝のニュースのコメンテーター群が、一人残らず、この先生のことを、自分の前にシチューが配られないだけで怒った大人気ない先生として、

 「ちょっとどうかと思いますねえ」

 という意味の発言と共に笑ったことである。

 自分のところにシチューが配られないだけで怒った幼児的先生なら、後段のような話をすることはないだろう。

 こんな些細な事件が新聞に載る背後には、子供の食事を一食抜かすのは、大変な悪だという社会の甘えがある。昔は礼儀知らずや気のきかない自分の娘・息子に対しては、各家庭の父親自らが、チャブダイをひっくり返して怒ったものだ。もちろん私はその手のしつけを全面的にいいとは言わないが、どうしてもわからなかったら、たまにそういう態度に出て、子供が身にしみて実感できるようにする先生がいても、少しも悪いことではない。

 たまに一食くらい、子供に食事を与えないのは必要だ。昼飯は必ず出て来るもので、食べ損なうと大騒ぎをするという感覚の方が異常だ。この先生が始終同じ形の罰を乱発するようになったら問題だが、たまに一食抜かせて、世界的な貧困の辛さを体で理解させるのはいい教育だと、私は思う。
 



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