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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 公費?「恰好をつける風潮」やめて  
コラム名: 自分の顔相手の顔 268  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 1999/09/06  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   富山県下の山田村が「電脳村」と言われているのは、七割の世帯に村がパソコンを無料で貸し出しているからだという。孤立しがちなお年寄りもEメールで世界を広げられるようになった。その村を総理も視察し「(パソコン普及の)予算が必要だったらつける」とおっしゃったそうだ。
 この「電脳村」ばかりでなく日本中に、老年でコンピューターを始めてもすぐマスターする人はいくらでもいる。今までいちいち人に頼んでいた買い物をパソコンで済ませられるようになったり、見知らぬ人とEメールで文通を楽しむようになったりした人がいることも間違いない。しかしそれは個人の選択でやることで、地方自治体が無料で貸し出したりしたら、必ず相当の数の「おいてあるだけ」の機械が出て来るはずである。そんな税金の無駄をどうして許すのだろう。
 家電の会社にしたら、日本中で各戸に一台ずつパソコンを入れてくれるのは夢だろうが、山田村はどうして公費を使ってそれほどパソコンの普及に努める必要があるのだろう。こういう「格好をつける風潮」が、全国に広まることがないように祈るばかりである。
 老人だろうが若者だろうが、人は皆ほんとうに自分が望むものを、金も心も使って手に入れるのが当然だ。パソコンをただでおいてもらうなどというのはむしろ教育的でない。
 私の働いている日本財団では、ボランティア支援にも年間約六億円前後のお金を使っているが、一時期その多くがこぞってパソコン購入を目的とした申請を出した。二十人のお年寄りに給食サービスをしているようなグループまで、パソコンが必要だと言い出したのである。それくらいの事業規模なら手書きでも処理できる。しかしそれでもコンピューターでデータ整理をした方が、訂正も素早くできるのはほんとうだから、そういう人たちは、まず知人や親戚を駆けずり廻って事情を説明し、どこかからただで古い機械をもらってくればいいことなのだ。ボランティアはそういう努力もするべきだろうと思う。
 それで私は、コンピューター化がどうしても必要なほど組織が大きくなった所以外、オフィスにコンピューターを入れて「いかにもそれらしく形を整え」たがる団体には、資金を出すのを止めることにした。ボランティアを育てるには、むしろ貧しさと苦労の「体験を贈る」ことも必要なのだ。
 こういう地方自治体が、機械に弱い世代のために、コンピューターの使い方教室を開くのはいいものだ。第一それをきっかけに外出もふえ、知人もできる。私をも含めて機械馴れがしていない老世代は、同じ質問を繰り返したりすると、若い人たちに悪くて遠慮するのである。やってみてほんとうに自分は使えると思った人だけが機械を買えばいい。そこで初めて自治体が補助金を出すのもいい。しかし希望者に一台無料で貸し出すなどという企画は、日本財団だったら決して認可しない。
 



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