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日露シベリア開発は大賛成 レベジさんの思考は「スラブ主義」を唱えるノーベル賞作家ソルジェニーツィンの影響を受けているといわれます。ソルジェニーツィンのエリツィン嫌いはつとに有名です。それもあってか、レベジさんは舌鋒(ぜっぽう)鋭く「病床で酒をくらい魂を米国に売ったふぬけ者。対米追従の代償としてのG8入りは自已顕示のため」とエリツィン批判はことのほか厳しい。ちなみにレベジさんは「ウオツカは国を滅ぼす」と禁酒宣言しています。 G8出席の折、エリツィン大統領が日本に向けた核弾頭の照準を外すと公言、日本政府の好評も得たことにも冷ややかなものです。照準設定は数秒で戻すことが可能であり、専門家ならその欺瞞(ぎまん)性は分かるはずと冷笑していました。一九五〇年生まれのレベジさんは「大祖国戦争」の経験はなく、冷戦体制下の一方の雄としての大国ソ連の誇り高い軍人としてのみ育ってきました。それだけに、超大国ソ連が解体、その版図が縮小され、加えてNATOの東方拡大策は堪え難いことのようです。彼はロシアの現状を「恐竜」にたとえ、懸念を表明しました。 ずうたいだけが大きく、頭の小さな恐竜はしっぽがどんどん切り刻まれているにもかかわらず、痛み、あるいは生存そのものについての危険信号を頭脳で受け止めていないというわけです。江戸川柳でいう「大男総身に知恵がまわりかね」です。 レベジさんのいうしっぽとはシベリア、沿海州であり、この地域に中国の触手が入り込んでいると主張します。NATOの拡大策もさることながら、今後ロシアが注意すべきは中国の膨張政策であり、日本との関係改善が急務であるというわけです。 「地政学的に共通の敵が在る。われわれは種々の問題で合意できるはずだ。無論、日本の安全保障理事会入りには賛成だ」。武人出身の政治家らしい言葉でした。私が「閣下の日本への認識は北方領土返還を唱えるうじ虫ではなかったのでは」と皮肉ると「通訳上の間違い。一億の人口を有する日本を山にたとえるわけがない」と懸命に否定していました。北力領土問題については「目下、勉強中。良いアイデアがあったら教えてほしい」と体をかわされました。経流問題については「良く分からないが、対中政策からもシベリアの日露共同開発は大いに進めるべき」と話していました。 二時間の会談中、レベジさんは私の目を見続け、視線を外すことがありませんでした。私も外国の要人と話すときは、かならず相手の目を凝視して話すことを常としていますが、今回ばかりはいささか疲れました。レベジさんには広島で、原爆記念館を見てもらう計画があります。
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