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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 男女同権?この程度でおこがましい…  
コラム名: 自分の顔相手の顔 30  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 1997/03/04  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   私は「フェミニズム運動」というものが嫌いで、講演の時「女性のための」という限定がつく時には行かないことにしている。
 私はフェミニズム自体に反対なのではない。運動することに反対なのである。
 私は結婚によって、フェミニズムを当然とする一家の一員になった。義母は売れない新劇の女優でアナキストであった。夫のたった一人の姉は定年まで大学の教授として働いた。血は繋がっていないが、甥はもちろん甥の奥さんも働いている。私の一人息子もその妻も、やはり働いているから、私は時々息子に「ちゃんとお皿洗いをてつだっている?」と聞いたりしていた。
 家庭も大好きだが、外界もおもしろい。外で働くと、その両方が好きになる。しかし辛いことも増える。私がどうやら家庭と仕事を両立できたのは、核家族でなかったからだった。老世代といっしょに住めば、夜遅く帰っても、何となく子供を見ていて貰える。
 しかし核家族ではない重さはあるし、そんな姑息な方法でなく、子供を預ける施設があることが先決だということもよくわかる。ただ、何でもいいだけのことはなく、悪いだけのこともない。私は、二世代いっしょの生活から、大切なことをたくさん学んでよかったと思っている。
 しかしこのごろ、日本の女性は外で働くのが好きではないのではないか、と思うことがある。誰も妨げてはいないのに、政治家になろうとする女性の少なさはどうだろう。職場でも専門家だなと思う女性は実に数少ない。
 会社に電話すれば、さんざんこちらに用件を喋らせたあげく「ちょっとお待ちください。今係と代わりますから」と言う。わからないなら、最初から「少々お待ちください。只今係と代わります」と先に言えばいいのだ。
 だから最初から私は「あなたは、よくわかる方ですか?」と聞くことにしている。すると「少々お待ちください」と言って引っ込む女性社員が過半数である。
 デパートで売り場を聞けば、わからない人の何と多いことか。そして私の尋ねた売り場が、ほんの三ブロック後にあったりすることはよくある。皆仕事に興味もなければプロの根性など全く持ち合わせていないのである。
 そんな程度で、どうして同権など要求できるのだろう。私はよく、少し危険だったり不潔だったり不便だったりする場所へ取材に行くが、そういう所に女性を誘うと、「危なくない?」とか「怖くない?」とか聞かれて嫌になる。危なくても怖くても嫌でも行くのが、仕事をするということなのだ。
 男女同権など叫ばなくても、自然にあの人にいてもらうと仕事の上で得だから、と企業や組織に思わせられれば、すべては解決する。これを言うとまたフェミニストたちは決まって怒る。私は男好きだから、すべての仕事を男女いっしょにしたい。女だけが集まってフェミニズム運動などするのは寂しい。
 



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