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戦争を殺すことに人生を 今月十四日、約束通りレベジさんはインナ夫人を伴い日本を訪問しました。 「男子三日会わざれば刮目(かつもく)して相対すべし」といいます。レベジさんとは三カ月ぶりの再会でしたが、その変ぼうぶりには篤きました。 先にレベジさんのことを「仕上がり前の塑像」と表現しましたが、この言葉は全面撤回です。 一週間の日本滞在中、きわどい質問に対し、アネクドート(ロシア小話)をはさみながらの当意即妙の話しぶりなどは元軍人のイメージからは程遠いものがあります。 恰幅(かっぷく)のよさに加え、張りのある低音の声は一層、魅力を引き立てます。ある会合の席上、シャリアピン顔負けの美声と評されると「脳みその少ない軍人は声でカバーしろと教えられた」とニヤリ笑っていました。 軍人から政治家への転身の動機について「二十五年の軍人生活で得たものは二つの勲章とウオツカ二本分の年金だった。軍人として教わったのは人を殺す技だった。今後は政治家として戦争を殺す(なくす)ことに人生をかける」と力強く答えました。 旧共産党政権時代の名残でしょうか、総じてロシアの政治家は長広舌です。答えが長々とした演説調になります。 しかし、レベジさんの応答は簡明そのもの。軍人教育によるものかもしれませんが、テレビ政治の時代に入ったロシアでは、この簡明さ、簡潔さが政治家としてプラスに働くのではないでしょうか。 エリツィン大統領以上にその政権を支えるチェルノムイルジン、ネムツォフらの閣僚、さらにはルシコフ・モスクワ市長、みな悪徳資本と結託したノーメンクラツーラと断罪していました。 現政権批判のボルテージがますます上がっているのが印象的でした。 こうした名前は次の大統領選挙でのライバルです。当然といえば当然のことでしよう。 インナ夫人には初めてお会いしましたが、典型的なロシア美人。戦後生まれの世代だけに屈託がなく、明るく、聡明(そうめい)な女性です。旧ソ連時代の党官僚政治家のご婦人たちとは、肌合いが違います。軍人の妻として連れ添ってきただけに、内助の功に徹する慎みを持った人です。 来日当夜、同行スタッフから日本への理解不足が日本国民に悪印象を与えるのでは、との懸念がひそかに伝えられました。私は「心配いりません。分からないことは、はっきりとそう答えてください。知らないことは知らないと答え、日本に勉強に来たと率直に言ってください」と伝えました。 私は、レベジさんが十分に日本を実地勉強して帰ったと確信しています。
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