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もう四年ほど前から日仏対話フォーラムという会合があって、フランスと日本と隔年で会合をしている。 今年はパリで会合をする年に当たっていて、一九九九年の九月九日の夜から、日本大使館でワーキング・ディナーが始まった。フランス人は食事の時など日本人のようにみみっちく仕事などしないのかと思っていたら、この頃フランス語でも「仕事昼食」とか「仕事夕飯」に当たる言葉があるのだそうだ。 翌十日は、外務省の会議室で十三時間、会議をして過ごした。ヴェルサイユ宮殿風の作りだから絢爛豪華な部屋だが冷房がない。昼食の時も、チーズが出ると会議が再開された。 夕方、座長の中曽根元総理がシラク大統領を訪問されるためにエリゼー宮に行かれたので、私たち委員もお供してその時だけ前後二時間ほど外の空気を吸えた。総理が行かれると、数十人の儀礼兵が出てお迎えになる。帰りは古典的な銀色のヘルメットの先端に、長い毛の飾りをつけた宮廷衛兵の見送りもある。こういう光景は普通では見られないものだから私は喜んでいるが、エリゼー宮殿にも冷房はない。美術的な建物は、人為的に温度や湿度を変えると破損がひどいのだろう。 今年のパリは異常なくらい暑いそうで、秋の気配を予測してウールの服しか持っていかなかった私は、長い会議の間中、男性と同じくらい暑い思いをした。私たちの小さな日本の家は、宮殿よりも素早く涼しくも暖かくもなるものだ、ということに初めて気がついて、幸福な思いになった。 今年、フランス側の委員に、まだ四十歳のしっかりした美しい女性が加わった。シェルブールにあるフランス核燃料公社(COGEMA)の会長兼社長のアンヌ・ローヴェルジョンさんでパリ国立高等鉱業学校卒である。私は今このフランス核燃料公社の出て来る小説を「文学界」という雑誌に連載しているので、先方の仕事もよく知っていたから、向こうもびっくりしている。 これもフランスの外交の巧みさの一つなのだろうか。日本でも旧動燃のような組織の代表者は、女性がよかったのである。このローヴェルジョンさんもそうだが、ちゃんとその道の専門家の責任者が女性だったら、マスコミとの間で、あれほど関係が軋むこともなかったろう。女性の魅力でことを誤魔化すのではない。女性の方が、柔軟に、細かく、誠実で、相手の心を読み取り、語り合えることも多いのである。 防衛庁長官も女性の方がいい。三カ月も勉強すればかなりの専門家になるし、それ以上の知識はその都度ブレインに教わればいい。力というものに対する恐れさえ知っている人なら、充分に勤まって破壊的な要素が少なくて済むかもしれない。戦いというものは、必ずしもNATOがコソボに対する空爆で成功したと言っているような、単純な正攻法だけで解決がつく時代ではなくなっている。
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