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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: 日本人妻里帰り問題 3)  
コラム名: 地球巷談 32  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 1997/08/10  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  国交正常化への第一歩に
 日本人妻の里帰り問題で金正日書記の側近、A氏との話し合いが延々十数時間に及んだことは前回触れました。
 私は会談翌日の六月二十四日朝には平壌を出発しなくてはなりません。最終的結論の出ないまま、午後十時からのお別れ会でも話し合いは続きました。そして最後にA氏から出てきた言葉が「笹川さん、お話はよくわかりました。お帰りになった後、われわれの行動を見ていてください。ただし、五百人ではなく、数百人でいかがでしょう」というものでした。
 私は即座にこの提案を受け入れ、私たちは杯を挙げて乾杯しました。時刻は午前二時を回っていました。
 今回の訪朝では、食糧難に苦しむ北朝鮮の実情視察も目的のひとつでした。到着時、私は、北朝鮮の一人一日の配給量、百五十グラムの米のみを食すると宣言しました。毎食、おかずなし、ちゃわん一杯のかゆで二日間をがんばりました。いささか、子供じみた行為だったかもしれませんが、北朝鮮のみなさんは、私の誠意を理解してくれたはずです。それだけに、乾杯の酒は利きました。
 ところで、わが国では、マスコミを含め、日本人妻の問題をどうも政治問題化して、み過ぎるのではないでしょうか。もっと人道上の問題、同胞の問題として素直に考えるべきではないでしょうか。海外で航空機事故が発生すると、日本人が巻き込まれていないかどうか一喜一憂する一方、この種の問題になると我関せずで、みな評論家になり、取り澄ましているように思えます。
 国交のない北朝鮮との間の問題です。国益の絡んだ種々の問題が複雑に入り交じっていることは重々承知の上の話です。しかし、長きにわたり棚上げにされてきた日本人妻の里帰りは問違いなく人道上の問題なのです。
 絶えず私が考えていることに戦後処理問題があります。北朝鮮との関係改善、そして北方領土問題、このふたつの解決こそが、二十一世紀を迎えるにあたっての日本に課せられた大きな外交上の国民的課題だと考えています。一私人ではあっても、これらの課題に微力をつくすことは国益にかなうとも考えています。決して、外交は政府、外務省に任せておけばそれでよしとの立場はとりません。
 ともあれ、一私人としての私の役割は終わりました。後は日本政府の仕事です。北京での政府間非公式折衝が成功し、早期に里帰りが実現することを祈るのみです。そして、里帰り実現が日朝国交正常化という大きな最終目標に向かっての最初の第一歩となることを願ってやみません。
 



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