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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: レベジ前書記 1)  
コラム名: 地球巷談 36  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 1997/09/07  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  野性味と腕力のある政治家
 今回からしばらく次期大統領職をうかがうロシアの政治家たちを素描します。
 ご存じの通り、エリツィン大統領は心臓疾患を抱え、また三年後には憲法の規定によりその職を辞さなければなりません。エリツィン以後をうかがう政治家は数多く、群雄割拠の状態です。そうしたなかで、現在一頭地を抜いているのが前安全保障会議書記のレベジさんです。アフガン戦争等での武勲もさることながら、武骨ともいえる身辺のクリーンイメージが国民の支持を得ているようです。退役後、ロシア国民共和党を結成、その党首として活躍中です。
 この六月末、私はレベジさんを日本に招請すべくモスクワを訪れました。日本政府は、かねてから先行き有望なレベジさんを招請したいとの意向を持っていました。しかし、反エリツィンの急先ぽうであるレベジさんを政府自ら招請することはできません。そこで、民間レベルでの招請が最適ということで、招請委員会の設置に私が一役担うことになったのです。もちろん、私とレベジさんとは初対面、マスコミ報道を通じて、彼の『日本蛆虫(うじむし)論』を知っているだけに興味津々でした。旧ソ連軍の超エリート、空てい部隊の出身だけに身の丈一八○センチはゆうに超える筋肉隆々の偉丈夫。「将軍」の名称がピッタリ。「レベジ」はロシア語で白鳥を意味しますが、彼の場合は名前と風貌(ふうぼう)が異なりました。
 私はまず大統領選以来のエリツィン政権との関係についてただしました。レベジさんによると、昨年の大統領選挙の第一回投票で二位につけたが、第二回投票でエリツィン支持にまわった結果、安全保障委員会書記として入閣を求められました。受諾条件として、チェチェン紛争解決の全権委任と官僚の綱紀粛正をあげ、エリツィン大統領もこれを受け入れました。ところが、レベジさんが解決不可能と思われたチェチェン紛争を見事に処理し、二〇〇一年まで現状凍結することで停戦合意を取り付けました。今一つの約束である綱紀粛正に、さらに剛腕を振るわれてはたまらないと、エリツィン側近が戦々恐々となり、わずかニカ月で解任されたのが真相です。政治家としてのレベジさんの印象は、仕上がり前の塑像といったところでしょうか。粗削りであるが、剛刀でバサリと切る武人の迫力を感じました。
 かつて司馬遼太郎さんは「ロシア国家が成立したのはわずか十五、十六世紀にしかすぎず、若い分だけ国家としての猛々しい野性を持っている」と評されたことがあります。私は常々ロシアのような若い国を統治する人物は、野性味と腕力のある政治家が不可欠と考えてきました。レベジさんは、少なくともその条件を満たしています。
 



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