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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 外交の理論?「攻撃で解決」頼んでいない  
コラム名: 自分の顔相手の顔 121  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 1998/02/23  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   私がこの原稿を書いているのは、まだオリンピック期間中で、アメリカとイラクの関係が緊張を増している状態である。
 昔アラブで、彼らの闘いの知恵と言われるものを教わった。それは、喧嘩とか戦争とかの引き際では「勝者もなく、敗者もなく」納めねばならないというものである。私はこの言葉が気に入って、ベイルートの崩壊の時の状況を書いた小説を全く同じ『勝者もなく、敗者もなく』という題にしている。
 しかしアメリカの文化は違う。アメリカというのはおもしろい国で、自分の哲学と信念と正義が世界中で通用するということに、疑念を抱かない国家である。それはそれで自由なのだが、もしそれが国家でなく、人であったら、私はその単純さにおいてほとんど興味を抱かないだろう。
 だからアメリカは戦いに勝つ時でも「勝者もなく、敗者もなく」ではなく、「お前は負け、俺は勝ち」ということにしなければならない国なのだ。
 テレビなど見ていると、キャスターが今度のアメリカの攻撃は、前にイラクがクウェートを侵略した時と違って、攻め込む理由がないでしょうなどと言っているが、アメリカの姿勢には恐らく北朝鮮への警告も含まれているだろう。北朝鮮が、イラクと同じ国連の査察を断るようなことをすれば、イラクと同じことになるだろう、ということである。だから、日本としては微妙なところもあると思われる。
 しかし今度こそ、日本はアメリカから、後で膨大な戦争経費のつけを廻されてそれを支払うなどというようなことだけはやめてもらいたい。クウェートの時は約百三十億ドル支払った。そしてクウェートからは友好国として感謝もされなかった。
 こんなことは、私が今働いている日本財団という民間の一財団でもしてはいけないことだろう。私は財団がお金を出せば、それなりに(イバルのではないが)この事業に財団がどういう役割を果たしたか、きちんと広報してもらうことを厳密に要求し、条件付けている。もしどこかの組織が自分の選択でまず事業に使った後で、後から「これはお宅のためでもあったんです」と言ってお見繕いの額を要求してくるようなことがあるとしても、財団は事前に納得していない金を払うことなどあり得ない話である。
 しかし「安全のための国連の査察を支持する」という意味で、応分ということはあるだろう。だが日本は攻撃によって解決してくれ、と言ったのではない。攻撃する、と決定したのは、アメリカであり、イギリスである。それをはっきりと認識した上での応分でなければならない。
 クウェートの政策の失敗は、日本に毅然とした外交の理論がなかったということを示しているように見える。もしそうでないなら、日本の国家の国民に対する広報がなっていなかったのである。
 



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