共通ヘッダを読みとばす

日本財団 図書館

日本財団

Topアーカイブざいだん模様著者別記事数 > ざいだん模様情報
著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: ボランティア活動?楽しみでやってよいのか  
コラム名: 自分の顔相手の顔 82  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 1997/09/16  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   先日、或る貧しい国で、一人の聴力障害のある子供を特別の学校に送るために働いている日本人のボランティアの話を聞いた。
 その子は親とも縁の薄い気の毒な運命で、しかも耳が聞こえない。シスターたちは是非とも聾学校へやって、将来の自立を助けたいと考えていた。
 その子を首都にある学校へやると、日本円で月に三千数百円かかると言う。年間の学費としては、四万円ちょっとということになる。そのために日本ではサポートのグループができて、バザーやイベントを考えているということであった。
 もちろんどのようにしてお金を作っても、目的が達成されたらそれで構わないようなものではある。しかしその話を聞いた時、私は一瞬耳を疑った。
 「必要なのは四万円ちょっとでしょう」
 と私は計算をし直してみたりしていた。
 「それくらいのお金を集めるのに、バザーやイベントですか」
 この頃、私はボランティアを楽しみでしてはいけないような気がし始めているのである。初め、よい心を示すものは、どれほど時間をかけてもいいような気がしていた。一人でぱっと四万円を出す人に頼むより、皆が助け合って心を示す方がいいような感じもあった。しかし再びこの頃、そうは思わなくなったのである。
 四万円のお金は、大きいともいえるが、日本人にとっては、やはりそれほどの金額でもない。しかもこれは一人で出すのではない。サポートする人のグループを作ったというのだから、もし二十人の人を集めていたら、一年間に一人が二千円ずつ出せばいい話である。
 二千円というお金は、一回のパーマ代、一個の化粧品代、一回のケーキとコーヒー代、お弁当を作るのが面倒なので近くの食堂で食べる昼食代、今すぐ必要でもないハンドバッグを買い込む出費などを考えると、ほとんど問題にもならない金だろう。何もバザーやイベントをしてお金を集めなくても、外食を二回やめればそれだけで出て来る金額である。
 小さな目的に、あまりに大げさなことをするのは、やはりその仕事に忠実ではないことだ。これからの日本では、若い人の労働力が不足するのだから、何ごとも手早く、効率よく、地味に働いてさらりと目的を達しなければならない。
 道楽というものは、それをしている人は自分の「愚かさのようなもの」をおかしく思いながら意識しているところがある。しかしこういう働きは道楽と違って、自分で決して愚かさを意識などしないどころか、むしろ人道的だと感じている。だから始末に悪い。
 ボランティア活動は、初めからいささかの損を覚悟すべきだし、あまり楽しくない方がほんものである。楽しくてたまらないボランティア活動には、どこかに危険な匂いがする。
 



日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION
Copyright(C)The Nippon Foundation